文科省前局長に私立大支援事業選定で便宜を図る見返りとして、息子を不正合格させた問題が発覚し、7月に理事長と学長が辞任した東京医科大学は19日、教授会による学長選が実施された。その結果、次期学長に病態生理学の林由起子主任教授が、同大で女性として初めて選出され、10月1日付で学長に就任した。
学長選は林教授と小児科の男性主任教授が候補になり、林教授が有効投票数の過半数を獲得したらしい。同大は不正合格の問題をキッカケに、女性や3浪以上の合格を抑制するため点数操作を行っていたことも発覚。弁護士や同大学教授の女性医師からなる第三者委員会を設置し調査するとしているが、10月2日現在、まだ調査結果の報告はない。
「女性なら良い」などと考えてはいけない
林教授が能力や実績が優れており、評判ガタ落ちの同大を立て直す“リーダー”に相応しいと周囲が認めた上で、選出されたのなら何の問題もない。だが現状では、林教授の学長就任が、女性受験生を排除していたことの謗りを受けての「女性を学長にすれば男女平等、女性差別なんてない」というアピールのように見えてしまうことも事実だ。
そうしたアピールは、減点問題とまったく同じことだ。学長選の対抗は男性主任教授だったようだが、「今回は女性を選出したほうが良さそうだ」といった意識が選出者たちにあり林教授に票が集まったのだとすれば、今度は男性への点数操作を行ったことになる。
「どちらの人間がより適任なのか」を、性別ではなくその人の能力や実績などで評価・判断することが男女平等である。10月3日発売の「週刊新潮」(新潮社)によれば、林学長は2014年に大学の研究員だった30代の女性にマタニティハラスメントをはたらいたとして、民事裁判で訴えられている。このことは学長選において考慮されなかったのだろうか。
また林学長は9月26日に文部科学省を訪問し、一連の不正入試について「報道に本当にびっくりしたし、残念に思った」とコメント。「入試は公正、公平にやり、これまで受験して不利益を被った方には誠実に対応したい」と話したという。第三者委員会の調査報告を含め、広く公開の姿勢をもって対応していってもらいたい。
医療界に蔓延する「女性は厄介者」の風潮
残念ながら医療界には東京医科大の受験における女性医師の抑制を「仕方のないこと」と受け止める向きがあり、妊娠や出産で一時離脱したり育児のため負担の重い業務から外れたりする女性医師は「役に立たない」と厄介視される現状が今回の件で浮き彫りになった。
株式会社エムステージが男女の医者に行った調査によると、東京医科大学の入試で女性受験者を一律減点したことについて、「理解できる」(18.4%)、「ある程度は理解できる」(46.6%)と回答。程度の差こそあれ、6割以上が減点したことに理解を示し、「女性差別は仕方がない」といった雰囲気が医療界に蔓延していることが伺える。
また、株式会社CBホールディングスが医師112人に実施した調査によると、「医療現場で男性と女性の医師とで業務内容などに差があるか」と聞くと73.2%が「ある」と回答した。やはり、医療界の男女差別は非常に根深い現状にあると言える。それは、「差別ではなく、事実として女性は厄介な存在だ」と正当化したくなるほど、そもそも医療現場の労働者に重い負担がかかっているということを意味する。医療現場を性別にかかわらず風通しよく働ける職場環境にしていくには、患者を含め社会全体での意識改革が求められるだろう。