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「あなたのアイデンティティはなんですか?」 ニューヨークに住む26人の移民たち

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Thinkstock/Photo by Rawpixel

 大坂なおみ選手の “アイデンティティ記者会見” 炎上がきっかけとなり、「日本人とは?」「アイデンティティとは?」「二重国籍」「移民」「人種」「ハーフ」など様々な問題が一気に吹き出した。これまでの日本ではあまり語られることのなかった、いや、語ることを敢えて避けてきたともいえる諸問題だ。

 筆者は在米邦人向けの雑誌に、世界各国からニューヨークへやってきた移民たちへのインタビューを2004年から2008年まで連載していた。毎回、母国での生い立ち、移住した理由、移住後のアメリカでの人生を時系列に沿って語ってもらい、最後はかならず同じ質問で締め括った。

 「あなたのアイデンティティはなんですか?」または「あなたは自分を何人(なにじん)だと思いますか?」。ただし、この質問を短い一文に収めることはできず、質問の意図を説明し、当人の思うままに答えてもらった。

 以下はその答えの部分のみを抜粋し、並べたものだ。小難しい社会問題とは捉えず、それぞれの人の人生の、ある一時期の自分自身に対する思いを写し取ったポラロイド写真、もしくはインスタグラムの画像のようなものとして読んでもらえたらと思う。ただし、各断片には出生国、育った土地、移住後に暮らした土地、言語、食、人種、民族/部族、信仰、親から譲り受けた文化や伝統などに基づく、人によっては確たる、または揺れるアイデンティティが潜んでいる。

出身国(職業 インタビュー当時の年齢 米国移住時の年齢)

■ベトナム(大学生/ブティック店員 22歳 米国移住時9歳)
僕のエスニック・アイデンティティ? いい質問だね。僕はアメリカで生まれたわけではないけれど、ここで育った。ベトナムは常に僕の血の中にあって、文化でもある。けれどアメリカに13年暮らし、それが今の僕を作った。僕は自分をいつも「アジア系アメリカ人」と呼ぶ。そうだね、僕は「アメリカ人」だ。

■ドミニカ共和国(求職中 44歳 米国移住時6歳)
私は今も「半分ドミニカ人、半分アメリカ人」だと感じるの。例えばアメリカの政治や社会問題は私にとっても切実だし、ドミニカの問題も父を通して常に耳に入ってくるし。もっとも、年を経るに連れて、どんどん自分は「アメリカ人」だという思いが強まってはきているけれど。

■マリ共和国(アフリカ産布地店経営 37歳 米国移住時25歳)
歳をとって引退したらホーム(故郷)に帰ろうと思ってる。マリのことだよ。妻はアメリカ人だけど、一緒に帰ることを同意してくれてるしね。僕? 僕は「アフリカ人」だよ。米国市民権を取った今でもね。アフリカで生まれて25歳まで暮らしたんだ。アフリカの文化は僕に染み付いているんだよ。じゃあ、自分のことをニューヨーカーだと思うかって? うーん、そうだなあ……。そうだと言えるね、今ではマリよりもここにたくさんのコネクションがあるからね。もう12年も暮らしているから。それだけ長く住めば、誰でもその土地の「何か」を身につけてしまうんだよ。
(註:下記のマリ共和国出身男性の兄)

■マリ共和国(アフリカ産布地店経営 25歳 米国移住時17歳)
アメリカに来たばかりの頃は故郷が恋しかった。あの頃は実父もまだ健在だったしね。もちろん今でもマリを懐かしく思うけれど、時が経つに連れて思いは薄れてきたよ。もっとも、僕の中身は今でも「アフリカ人」だよ。この国が人生を大きく変えてくれたから、僕はアメリカを愛している。僕は今、ここに属している。それでも自分がどこで生まれて、どこから来たかを忘れることはないんだ。
(註:上記のマリ共和国出身男性の弟)

■トリニダード・トバゴ(不動産会社勤務 32歳 米国移住時22歳)
トリニダードには「インドからの移民」「アフリカから奴隷として連れて来られた黒人の子孫」「ドゥグラと呼ばれる二者の混血」がいます。私もドゥグラです。(中略)たとえ(米国市民権を取得して)法律上はアメリカ人になったとしても、私は自分自身を「トリニダードから来て、アメリカに暮らすアイランド・ウーマン」と定義付けるでしょうね。

■ルーマニア(アーティスト/美術教師 36歳 米国移住時15歳)
私は「ルーマニア人」でもないし、アメリカの自由と可能性を享受してはいるものの「アメリカ人」でもありません。「ハイブリッド」だと思います。敢えていうなら「ヨーロッパ系アメリカ人」でしょうか。(註:下記の韓国出身男性の妻)

■韓国(歯科医 36歳 米国移住時7歳)
私は韓国系コミュニティに属したことがない。ニューヨークには大きなコリアンタウンがあるが、あそこに行くと自分をよそ者のように感じる。(中略)彼らにとっても私は異質なようだね。私みたいな人間を揶揄する “トゥインキー” という言葉があるくらいだ。これはバナナのキャラクターで、外観は黄色いが中身は白いという意味だ。(中略)遺伝子やどこで生まれたかは重要ではない。自分自身を説明するのに最も適切な言葉は「韓国系アメリカ人」や「アジア系アメリカ人」ではなく、「アメリカ人」だね。(註:上記のルーマニア出身女性の夫。白人の多い州で育ち、NYに転居)

■イギリス(ミュージシャン 27歳 米国移住時17歳)
そもそもアメリカは概念の国だ。本来はアメリカという名前ですらない。本当は、ここにずっと住んでいた人たち(ネイティヴ・アメリカン)が使っていた名前なんだ。そういう意味ではイギリスは最初からイギリス人の土地だったね。とにかくアメリカは概念の国であって、アフリカこそが実態なんだ。だから僕は「アフリカ人」なんだよ。

■メキシコ(ウェイター 29歳 米国移住時18歳)
私はメキシコで生まれたが、アメリカで大人へと成長した。今でも「メキシコ人」ではあるけれど、この国が好きだし、このままずっとアメリカのレストラン業界で将来を築いていきたい。2人の娘はアメリカ生まれだしね。私がメキシコ人か、アメリカ人か……人はどうみるかな。……そうだね、私は自分を「アメリカ人」と呼んでもいいと思うよ。(註:下記のメキシコ出身男性と友人同士)

■メキシコ(ウェイター 32歳 米国移住時20歳)
僕もそのうち市民権を取り、このままアメリカに永住する。それでも僕は「メキシコ人」として死ぬんだよ(笑)。それほど文化というものは濃いということかな。実は5カ月前に長男が生まれた。(中略)この子は将来、自分をメキシコ系アメリカ人と呼ぶのかもしれない。それでも、この子もメキシコ人であることに変わりはないんだ。(註:上記のメキシコ出身男性と友人同士)

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堂本かおる

ニューヨーク在住のフリーランスライター。米国およびNYのブラックカルチャー、マイノリティ文化、移民、教育、犯罪など社会事情専門。

サイト:http://www.nybct.com/

ブログ:ハーレム・ジャーナル

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