性差別?フェミニズム?恋する人間はみんなバカ?~『コジ・ファン・トゥッテ』の一筋縄ではいかない世界

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 皆さんはオペラはお好きですか? 以前扱ったバレエ同様、チケットが高いので行ったことはないという方も多いかもしれません。あらゆる仕掛けを使って目と耳を楽しませてくれるとても豪華な芸術であるオペラは、自分が興味を持てるポイントさえ見つけられれば十分楽しめる芸術だと思います。既にこの連載でもプッチーニの『ラ・ボエーム』を扱いました。

 今回の記事では、しばしば性差別的だと批判されるモーツァルトのオペラ『コジ・ファン・トゥッテ、あるいは恋人たちの学校』をあえてとりあげます。このオペラは問題作かつ人気作で、ニューヨークのメトロポリタンオペラで上演された作品を撮影して世界各地の映画館で見せるMETライブビューイングの一環として最近日本で上映された他、関東に限っても10月17~18日に国立音楽大学で、11月10日~11日には日生劇場で上演されるなど、頻繁に舞台にかけられる作品です。私はこのオペラが好きで、とくにモーツァルトの他のオペラに比べてそんなに性差別的だとは思えないのですが、それはなぜかということをお話ししたいと思います。

※『コジ・ファン・トゥッテ』の歌詞の日本語訳は全てオペラ対訳ライブラリー版に拠ります。

とんでもないバカ話

 ロレンツォ・ダ・ポンテがイタリア語の台本を書き、モーツァルトが作曲した『コジ・ファン・トゥッテ』は、1790年にウィーンで初演されました。複数人の掛け合いやデュエットが多く、オペラというよりはお芝居を歌い上げているような印象を与える作品です。タイトルはイタリア語で「女はみんなこうしたもの」という意味です。

 このタイトルがくせものです。『コジ・ファン・トゥッテ』の舞台は18世紀のナポリで、主人公はフィオルディリージとドラベッラの姉妹と、それぞれの恋人である軍人のグリエルモとフェルランドです。グリエルモとフェルランドは年上の哲学者ドン・アルフォンソに、女はどんなに一途で愛情深く見えても浮気をするものだと言われ、恋人たちの愛を試すため、出征するフリをしてアルバニア人に変装し、姉妹に近付きます。最初はまったく脈がなかった姉妹ですが、ドラベッラがまず変装したグリエルモに心を動かされ、最後まで悩んでいたフィオルディリージもとうとう姿を変えたフェルランドを愛するようになります。姉妹は偽アルバニア人たちと結婚することにしますが、最後に全てが明かされ、結局恋人たちは元の鞘に戻ってフィオルディリージはグリエルモと、ドラベッラはフェルランドと結婚することになります。

 「ちょっと待って!?」と思いますよね。終盤にフィオルディリージが悩んだ末、フェルランドと熱烈なデュエットをする展開があり、ホンモノの情熱を感じさせるドラマティックな音楽がつけられています。女たちについては、あれだけ覚悟して新しい恋人を愛すると決めたのに、こんなにすんなり自分たちを騙した元の恋人とくっついていいのか……? と思いますし、男たちのほうも、すぐに気持ちを入れ替えて元の恋人のところに戻ってしまうというのはビックリです。

 正直、話の展開はけっこうメチャクチャだと思います。しかも、これ以外にも途中でバカ展開がいくつかあり、姉妹の気を引こうと男たちが恋煩いで自殺をはかったフリをし、それをB級SF映画に出てくるようなマッドサイエンティストのヘンテコ治療で救命する(真似をする)という抱腹絶倒の場面があります。オペラというと難解で高尚な内容を想像するかもしれませんが、『コジ・ファン・トゥッテ』は相当なぶっとび話なのです。

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