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「社外取締役」制度の矛盾と、「日本は女性取締役が少ない」問題の真相

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Thinkstock/Photo by Monkey Business Images

 2018年9月16日付「日本経済新聞」は「女性の社外取締役の数が伸び悩んでいる」と報じた。

 東京証券取引所1部上場企業(約2100社)に在任する女性社外取締役は651人と、前年の552人から99人増えたものの、社外取締役全体に占める比率は11.6%と、わずか1ポイントの上昇にとどまっていると伝えている。

 企業の社外取締役の多くは、他社の取締役、弁護士などの法曹関係者、大学教員、官庁出身者などから選ばれる。

 ところが、そもそも他社で女性が取締役に登用される事例が圧倒的に少ない。なぜなら、男女雇用機会均等法が施行されたのが今から32年前の1986年。当時の大卒新入社員は現在、55歳となる計算だ。東洋経済新報社編『役員四季報』2018年度版によれば、上場企業の役員全体の平均年齢は60.8歳だから、男性と同様にキャリアを歩んできた層が、まだ役員に就く年齢に達していないのだ。

 そのため、どうしたって“下駄を履かせる”ことになる。

 役員全体で見ると、取締役の年齢分布は60~65歳が最も多いのだが、女性に限定するとだいたい5歳くらい若くなっている。先日、東京医科大学が入試合格者において男性に優遇措置を講じたことが問題となったが、企業では女性取締役を“捻出”するために、その逆の措置が行われているという噂さえ、雑誌・週刊誌で囁かれているのだ。

そもそも、「社外取締役」ってなんなのか?

 では、なぜそうまでして、女性の社外取締役を増やさなければならないのか。

 先に引用した日経記事では、「企業統治(コーポレートガバナンス)改革で取締役会の多様性(ダイバーシティ)を求める動きが強まっているが、候補者の人材不足という壁にぶつかっている」と結論づけている。

 ここで気になるのは、「取締役会の多様性を求める動きが強まっている」というくだりだ。いったい誰が、そうした動きを強めているのか。

 その疑問に答える前に、そもそも取締役ってなんなのかを考えてみよう。

 日本企業の多くは、株式会社形態を取っている。株式会社における業務執行の意思決定機関を取締役会といい、その構成員を取締役という。教科書的には、株主総会において、株主の意向をくんだ人物が取締役に選任される。

 たとえば、明治維新後、地方の資産家たちがおカネを出し合って鉄道会社をつくることが流行した。多くの人々から資金を調達するには、株式会社形態が適している。地方資産家たちは共同で鉄道会社をつくってその株主となり、株主の中から取締役を選び、社長を選ぶ。だいたいは、一番おカネを出した筆頭株主が社長だ。

 意外に知られていないが、社長を選ぶのは取締役会によってである。つまり、株主が取締役を選んで、取締役が社長を選ぶ。株主は取締役を通じて間接的に社長を選んでいるというのが、本来的な姿なのだ。

 しかし、そんな株式会社の原則は、現代の日本企業においてはまったく守られていないように見える。なぜか。

 それには2つの理由が考えられる。

 1つに、戦後の財閥解体や莫大な相続税を課す税制改正によって、日本の資産家層が小粒になってしまったこと。

 そしてもう1つに、高度経済成長期に企業が急成長しすぎて、個人が大株主にとどまっていられないような規模にまで企業が巨大化してしまったことだ。

 アメリカの学者であるA.バーリとG.ミーンズは、株式会社が大きくなりすぎると、会社を支配できるような株主がいなくなり、内部昇進型のサラリーマン重役が会社を支配すると説いた。

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「所有と経営の分離」を唱えたことで知られるバーリ=ミーンズの名著『現代株式会社と私有財産』(訳:森杲、北海道大学出版会)

 戦後の日本企業の多くはまさに、バーリ=ミーンズが言う通りになった。社長も取締役もみんな、内部昇進の従業員から選ばれるようになったのだ。

 そして、取締役会が社長を選ぶのではなく、社長が取締役を選ぶようになっていく。

 部長の中から取締役を選んで2年間やらせてみて、スジがいいヤツを常務に抜擢し、次は専務だ。副社長だ……てな具合である。

 社長に抜擢された取締役が、「業績が悪いから社長を辞めさせるぅ!?」 そんな恐ろしいこと、できっこない!

 よほどのことがなければ、社長の引き際を決めるのも、後継社長を誰にするか決めるのも、みんなみんな社長ご自身である。絶大な権力を持った社長を誰も止めることができない。だから、社長が暴走して問題になることが少なくないのだ。

 欧米でも同様に、内部昇進型のサラリーマン重役の暴走が問題になった。しかし欧米では、日本よりも個人株主の力が強い。日本ほど資産家層の崩壊が進んでいないからだ。そこで資産家である株主たちは、社外から取締役を連れてきて、内部昇進型の取締役をチェックするようになっていった。

 日本でも、社外取締役がまったく存在しなかったわけではない。しかしそのほとんどは、メインバンクやグループ会社から派遣された、企業間関係に縛られた、いわゆる“独立性の低い”者たちだった。

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菊地浩之

1963年、北海道札幌市に生まれる。小学6年生の時に「系図マニア」となり、勉強そっちのけで系図に没頭。1982年に國學院大學経済学部に進学、歴史系サークルに入り浸る。1986年に同大同学部を卒業、ソフトウェア会社に入社。2005年、『企業集団の形成と解体』で國學院大學から経済学博士号を授与される。著者に、『日本の15大財閥 現代企業のルーツをひもとく』(平凡社新書、2009年)、『徳川家臣団の謎』(角川選書、2016年)、『三井・三菱・住友・芙蓉・三和・一勧 日本の六大企業集団』(角川選書、2017年)など多数。

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