男同士の恋を描く必然性。明治時代に同性愛は好ましくないとして上演されなくなり、21世紀に復活した“歌舞伎BL”

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 また、衣裳に火をつける演出の困難さに加え、昭和30年代になると舞台上で本物の火を使用することが厳禁になったことも、長く上演を途絶えさせることになったそうです。

 その幻の作品が「染模様〜」として復活したのは、2006年のこと。作品を発掘し上演にこぎつけたのは友右衛門役の、今年十代目松本幸四郎を襲名した当時の市川染五郎自身でした。数馬を演じたのは片岡愛之助で、「蔦模様~」から変更された作品名の「染」「愛」は、ふたりの名前からついたものです。

 男性カップルといえど、友右衛門も数馬も武士。ベタベタするわけではないものの、手をつなぐ仕草などは恋の喜びにあふれる若者そのもので、ほほえましさと純愛ぶりが全開。障子の陰でシルエットで表現された濡れ場のあとに登場する、少し乱れた髪型の色っぽさは、カツラや衣裳の美を極めつくした歌舞伎ならではの美しさです。

 ふたりが幸せそうであればあるほど切ないのは、あざみの存在です。敵の手からせめて数馬の命を救おうとした結果、主君の屋敷の火事を引き起こしてしまった彼女は、罪悪感で自害。好きな男性を男性に取られるという複雑な傷心や嫉妬に加え、非力な女性の身では助太刀ができないという切なさは、ある意味いちばん観客の共感を呼ぶかもしれません。

愛する男の亡き後

 武士の心を汲んでくれた、大恩ある細川家の家宝に火の手が迫るのを見て、友右衛門は宝蔵へ走ります。ところどころ破れた衣裳から煙を吹き出しながら崩壊しそうな宝蔵内を進むと、上から木の破片が落ちてきて友右衛門を直撃したり、火の粉のような紙吹雪が客席まで舞ってきたり、テーマパークのアトラクションのよう。宝塚歌劇団の舞台セットのような大きな階段を駆け上って家宝を手にするものの、周囲はすでに火の海。意を決した友右衛門は自身の腹へ刀を突きさし内臓を掻き出して、御朱印状を文字どおり身をもって守り、壮絶に絶命。階段を転がりおちていきます。

 残された数馬は、友右衛門と出会ったときに咲いていたカキツバタを手に、愛する義兄を静かにしのびます。恋人を失った悲しみと、武士として忠義を貫いた友右衛門を誇る気持ちと、本懐を遂げたあとの虚無感と……。たくさんの感情を抱えた愛之助のたたずまいの透明感は、目に焼き付いています。

 2006年の初演、そして2010年の再演時、染五郎と愛之助は取材などで、積極的に「BLを意識した」と発信していました。歌舞伎のなかで“封印”された、異端のテーマを真正面から描くことで、武士道や忠義、武士同士の絆などの歌舞伎らしいモチーフがより輝いていたことは間違いありません。芸術の世界は「同性愛者の生産性」もとても高い、といっても過言ではないのです。

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