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『オレは絶対にワタシじゃない』という新刊が出ました

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トランス男子のフェミな日常/遠藤まめた

トランス男子のフェミな日常/遠藤まめた

 この夏、新しく本を出した。朝日新聞のブックサイト「好書好日」をはじめ、すでに書評がいくつか出ているが、肝心の自分の連載コラムでは触れていなかったので、ちょっと紹介しておきたい。この本は『オレは絶対にワタシじゃない トランスジェンダー逆襲の記』(はるか書房)というもので、これまでの自分のトランスジェンダーとしての生い立ちや、活動してきた約10年の軌跡をまとめたエッセイだ。

 尊敬する作家の中島らもが「人を泣かせる文章を書くのはそんなに難しくないが、人を死ぬほど笑わせるような文章を書くのは難しい」というようなことを書いていたので、それに習ってできるだけ笑いをちりばめている。3ページに1回ぐらいは少なくとも笑わせようと思ってウズウズしているような本なのだが、今のところ各紙のインタビューや書評は総じてまじめなのが面白い。うっかり社会問題をテーマとして選んでいるので、そうそう他人が「笑った」なんて書けないんだろう。

 前に、薬物依存症の田代まさしの講演会に行ったとき、出所して最初にリハビリ仲間に連れていかれたのが「しゃぶしゃぶ屋」だったので焦ったという話を聞いて大笑いしたことがあるが、それを他の人に話したら、やはり深刻そうな顔をされてしまったのだった。こういう「笑っていいのか深刻なのかわからずに困らせてしまう」みたいなギリギリのラインは積極的に提示していきたいタイプだ。でもまあ、やっぱりキワドイわな。

 私は忘れっぽいので、いろいろなことを書いておかないと忘れてしまう。自分がセーラー服を着て絶望していた子どもだったときのことも、だから社会を変えたいと思ったときのことも、18歳のときその一歩を踏み出したときのことも、どんどん記憶から無くなってしまう。それがこの本を書こうと思った理由だ。10年以上も社会を変えようと思ってあれこれしていると、無駄にタフにもなってしまう。怒ったり悲しんだりするツボがずれていく。できることが増えれば、今何かに困って絶望している人から見たとき「遠い人」になってしまうのは否めないだろうから、かえって出来ないことも増えていく。だから、30歳そこらで書いておかないとマズいかなと、数年前のある日にピコンと閃いたのだった。

 青春についてもっとも正直に書かれた本は「庭に埋めたくなるような本」である。読者が手にとったとき、自分のどうしようもなかった時代のことを思い返して、思わず「あああああ」と悶絶してしまうような本こそ正直だというのが、私の持論である。しかし、今回はほかならない自分が著者なので大変だ。間違いなく世界で一番「この本を庭に埋めたい」張本人なのに、これから新刊を売らなくてはいけないのだから。多くの人に読んでほしいが、同時に世界から葬りたい気持ちもあって悩ましい。そんなことをつらつら書いているうちに、また本の宣伝をしてしまった。ご興味のある方はぜひ。

遠藤まめた

1987年生まれ、横浜育ち。トランスジェンダー当事者としての自らの体験をもとに10代後半よりLGBT(セクシュアルマイノリィ)をテーマに啓発活動をはじめる。主にLGBTの若者支援や自殺予防に関わる。著書に「先生と親のためのLGBTガイド 〜もしあなたがカミングアウトされたなら」(合同出版)ほか。

twitter:@mameta227

サイト:バラバラに、ともに。遠藤まめたのホームページ

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