集団強制わいせつ事件の加害者と同じ価値観が、私たちのなかにもある

【この記事のキーワード】

三浦:加害者は自分よりいろんな意味で“上”の人をターゲットにしないので、性暴力の本質をついた発言でもありますね。

清田:そうした価値観を彼らがどうやって身に着けていったのかが、つぶさに書かれているのもこの小説の特徴ですよね。加害者となる主人公・つばさたち自身の性格や資質といった個人的な要因もあれば、偏差値とか経済力とかそういったもので上か下かに割り振られるという社会的な要因もあって、両者がモザイク状になっている。

被害者となる美咲が持っている“シンデレラ願望”だって、本人のなかから自然に湧いてきただけのものでもなくて、社会からの影響が確実にある。だから5人の東大生に対して「ほんとにこいつらクソだな」と感じる一方で、「でもこういう環境で育ったら自分もこういう考えになるかも」と思わされるし、美咲に対して「ちょっと無防備すぎやしないか……」と思いつつ、やはり彼女が生きてきた環境を考えると、あのように振る舞ったのも無理はないかもしれないと感じました。

高橋:私は、つばさたちが学歴で人を格付けして、その人格までもを下に見ることをすごく軽蔑しながら読みました。が、考えてみると自分のなかにも“学歴が高いほうが優れている”という価値観がたしかにある。それは子どものころから植え付けられてきたものだし、日本全体に行き渡っているといえますよね。加えてつばさたちは家柄もよくて裕福な過程に育っている。もし私が彼らに会うことがあったらコンプレックスを刺激されるだろうなぁ。

三浦:美咲はいってみれば、とても“おぼこい”ですよね。すごく善良だけど鈍感な面もあり、見ているとたまにイラッと感じてしまいます。いい子なのはわかるけど、同じクラスにいて友だちになるかと問われたら、答えに躊躇する感じ。

DokusyoKai02

Thinstock/Photo by jaimax/Photodisc

清田:僕はTwitterなどでこの作品への感想をチェックしたのですが、そのときに美咲にイラ立っている女性たちの投稿をいくつか見かけました。三浦さんはどういうところでそう感じましたか。

三浦:彼女は自分への絶対評価がなくて、他者から与えられる評価をもとに行動していますよね。容姿に自信がなかったけど胸が大きいと褒められたから胸元が開いた服を選んだり、東大生との飲み会で道化役を求められればそれに合わせようとしたり。自分で努力して何かを獲得することはあまりしないけど、他者からの期待や評価に応えようと行動する……というところかな。

でも、それって悪いことでもなんでもないんですよ。美咲に主体性がなくて無防備で、事件当夜、流されて彼らの家に行ったところで、あんな目に遭わなきゃいけない理由は一切ない。悪いのは100%加害者たちで、被害者にその原因を求めるのは二次加害でしかない……とわかっているのに、「ああ、美咲がもうちょっとしっかりしていれば!」「そんなに飲まなければ!」と思ってしまいました。私は日々、性暴力や性犯罪について勉強しているつもりなのですが、それでもこういう被害者に原因を見てしまうところが自分にも残っていることを、美咲に突きつけられた気がします。自分のなかの加害者性というか。そんな自分へのイラ立ちもあるのかも。

ホモソの空気に適応する女性

高橋:私も事件の背景を知らなければ、被害者のことを“東大生狙いの女性”と思ってしまったと思うんですよね。それもまた、自分自身の学歴コンプレックスが関係していそう。自分の内面にある何かしらのものを刺激される小説ですよね。

三浦:自分のなかの価値観とか劣等感、こうした事件についての認識を揺さぶってくる感じ。

清田:美咲の自己肯定感の低さと、そうなった背景が冒頭からずっと書き連ねられているわけですが、事件当夜の飲み会でも、その場のノリに適応し盛り上げ役として役立たなきゃと思い、みずから笑いをとりにいくような行動に出ましたよね。あれって美咲が主体的にやった行為じゃなくて、背景にはホモソーシャルからの圧力が強く働いていた。こういった笑いの強要──僕の友人はこれを“ワラハラ”と呼んでいましたが、かつては男性同士のあいだで強く働いていたものだったのが、最近では女性にまで波及しているように感じます。

たとえばバラエティ番組なんかを観ていると、かつて男性のお笑い芸人が引き受けていた役割を、女性アイドルや女優にも求められるようになっている。爪痕を残さなきゃ、といいながら。指原莉乃さんや朝日奈央さんのように、バラエティの文法を熟知してウマく返せたりボケたり、つまりホモソーシャルな空気に適応した女性が評価されているという状況がある。そういった流れが、あの夜の美咲の行動にもつながっているんじゃないかと感じました。

*     *     *

 同作には、主人公のひとりであるつばさだけでなく、事件夜、彼とともに行動した4人の男子東大生についてもバックグラウンドやその関係性がこれでもかというほど詳細に書き連ねられている。そのなかに「なぜ“頭がいい”はずの彼らが、非道な行動に出たのか」の答えを探すことができる。

 清田さんから出た「ホモソーシャル」というキーワードを、後篇でさらに広げていきたい。

後編:ホモソーシャルに生きる男性たちが、いとも簡単に「ヤバくなる」瞬間

1 2

あなたにオススメ

「集団強制わいせつ事件の加害者と同じ価値観が、私たちのなかにもある」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。