内田洋行が大企業の「慣性の法則」を打ち破り成功させた、新たなビジネスモデル

【この記事のキーワード】
「内田洋行」企業webサイトより

「内田洋行」企業webサイト トップページ

 企業が直面している課題の1つにビジネスモデル転換がある。複写機やプリンタなどこれまでビジネスモデルの優等生と言われてきた企業の、それもトップ自らが、ビジネスモデル転換の必要性を発信している。

 この連載では、ビジネスモデルについて、あれこれ考えてみることにしたい。タイトルを「散歩道」としたのは、教科書のような体系的なものとせず、散歩のように気の向くままにという意味だ。気軽にお付き合い願いたい。

 結論から言うと、ビジネスモデル転換は難しい。新しいビジネスモデルを考案することもさることながら、新しいビジネスモデルに転換することが難しいのである。既存のビジネスモデルが邪魔をするのだ。企業活動にも「慣性の法則」が成り立つ。その慣性を打ち破るためには相当のエネルギーが必要だ。しかも、方向転換した先が正しい方向かどうかもわからない。

新規事業を新人のみにした内田洋行の狙い

 90年代末、内田洋行は既存事業の延長線上に将来はないほどの大きな構造変化に見舞われていた。98年度決算は黒字予想から一転して赤字となると創業家の社長が辞任する。創業家以外から初となる社長が誕生したのは相当な危機感の現れであろう。「オフィス」「教育」「情報」の3事業を柱としていたものの、いずれもビジネスモデルを変革する必要に迫られていた。望みを託したのはIT事業である。

 社内にIT事業を推進できると思われる技術者たちはいた。そもそも「情報事業」はIT事業ともいえる。ところが、社内の技術者たちはいずれも業務用ソフトが専門で、Java、XML、Linuxといった当時主流になりつつあったソフトウェアに精通した者はほとんどいなかったのである。

 そこで内田洋行がとった戦略は「メンバー全員を新人とする研究開発部門」を立ち上げるという非常識ともいえるものであった。なぜか。

 当時も今もそうであるが、ITの技術進化は極めて速い。業務用ソフトに習熟した技術者にとって新たな技術を習得することは困難だ。そもそも、新しい技術を学ぼうという気力がないうえに、既存の知識が逆に邪魔をしかねない。会社も、時間をかけて業務用ソフトの技術者を転換させる時間的な余裕がなかったという事情もあった。

 新しい技術の習得は、まだ何色にも染まっていない新人のほうが適しているのではないか、同社はこう考えたのである。

 長野に中央タクシーという地元民から愛されるタクシー会社がある。長野駅のタクシープールに同社のタクシーの姿はない。90%以上は予約で埋まる。30分待っても中央タクシーに乗りたいという客でいっぱいだ。なぜそういう会社にできたのか。理由の1つが未経験者を運転手として採用したからだ。

1 2 3

「内田洋行が大企業の「慣性の法則」を打ち破り成功させた、新たなビジネスモデル」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。