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樹木希林を晩年のみで語るなかれ!「人生を達観した大女優」ではなかった“名脇役”傑作選

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映画『モリのいる場所』公式サイトより

 世の中を達観し、独自の人生哲学をベースにした教訓をささやくことで、迷っている人の背中を押す人格者……。

 この9月に他界した樹木希林について、なんとなくこのようなイメージを抱いている人は少数派ではないだろう。 少なくとも没後、多くの地上波テレビ番組はそんな樹木希林像を前面に押し出していた。

 樹木希林のこうしたパブリックイメージは、近年の彼女が映画においてまさにそうしたキャラクターを演じることが多かったことに加え、発言内容や私生活がクローズアップされることが増え、演じる役と本人とが同一視されることで確立されていったと考えられる。

 だが、この傾向が顕著になったのは意外に最近のこと。1990年代までの彼女にそのようなイメージはあまりなかった。1961年の“悠木千帆”としての俳優デビュー以来40年近くの間は、「懐が深い人格者」などではない、クセのある脇役が十八番の演技者だったというのが実際のところだ。

 つまり、晩年のイメージだけで樹木希林という演技者を語るのは、いささか無理があるといえるのだ。

 映画、テレビドラマ、CMを問わず、樹木希林が長い間、得意としていたのは主に以下のような役柄であった。

【パターン1】
散々嫌味を言った揚げ句、捨てゼリフを残して去っていく意地悪な人

【パターン2】
結婚願望が強いが、あまりうまくいっていない不美人な独身中年女性

【パターン3】
出てくるだけで笑いを誘うようなトボけた人物(世話好きの場合が多い)

【パターン4】
悪人ではないが、口が達者でずうずうしいおばさん(またはお婆さん)

 特にパターン2~4については彼女の真骨頂ともいえ、演じさせれば右に出る者はいなかった。

 ここでは、作品の面白さは二の次に、“いかに樹木希林がそれらしい役を演じているか”を基準にチョイスした、一見の価値ありの映画作品を紹介したい。

27歳、悠木千帆として国民的人気シリーズ第3弾に端役で出演
『男はつらいよ フーテンの寅』

監督:森崎東 配給:松竹  1970(昭和45)1月15日公開

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『男はつらいよ フーテンの寅』公開当時のポスター(松竹株式会社『男はつらいよ』公式サイトより)

 新珠三千代をマドンナに迎えたシリーズ第3弾。監督が山田洋次ではなく、さくら(倍賞千恵子)の出番が極端に少ないなど、イレギュラーな要素が目立つ作品だ。ただし、冒頭で、旅に出ていた車寅次郎(渥美清)が柴又に戻ってくることでストーリーが転がっていく──という、シリーズの一貫したフォーマットはすでに完成されている。

“悠木千帆”と名乗っていた当時27歳の樹木希林は、寅次郎が宿泊する旅館の従業員役で出てくる。まだそれほどアクは強くないが、大量の座布団を抱えて階段から落ちそうになったり、方言丸出しで涙を流して自らの身の上を嘆いたりと三枚目的なキャラクターに【パターン3】の源流を見ることができる。蛇足ながら、2つ縛りのヘアスタイルがかなり新鮮である。

人気シリーズの最終作。北川景子と同い年で演じたのは?
『まむしと青大将』

監督:中島貞夫 配給:東映  1975(昭和50)年3月8日公開

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東映より発売の『まむしと青大将』DVD版ジャケット

 “悠木千帆”の名前が広く知られるようになったのは、1974(昭和49)年放送開始のテレビドラマ『寺内貫太郎一家』(TBS系)で、主人公・寺内貫太郎(小林亜星)の母親を演じてからだ。実際の年齢は小林亜星(1932年生まれ)より11歳も年下ながら、白髪のカツラをかぶり、背中を丸めて老婆役に挑んだのだ。この役は、【パターン3】と【パターン4】のミックス系だといえる。

『まむしと青大将』は、菅原文太と川地民夫のコンビによるコメディ要素が強いやくざ映画、『まむしの兄弟』シリーズの最終作。悠木千帆は、グレた息子を連れ戻しに田舎からやって来る母親の役で出演している。といっても、キャラクターはほぼ『寺内~』のお婆さんのまんま。つまり、テレビの人気キャラを東映がスクリーンに引っ張り出したということになる。

 なお、このとき、1943年1月15日生まれの彼女はまだ32歳。今の北川景子と同い年である。

ポルノの体裁を借りた社会派サスペンスで、ヒールに徹する
『女教師』

監督:田中登 配給:日活  1977(昭和52)年10月29日公開

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ジェネオン エンタテインメント(現・NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン)より発売の『女教師』DVD版ジャケット

 中学の女性音楽教師(永島暎子)が、放課後の音楽室で生徒に性的暴行を受ける。学校という閉鎖的な空間で、彼女は好奇の目にさらされ、事件を闇に葬られそうになり、さらに恋人に裏切られる。失意のどん底に落ちていくなかで、思わぬ凄惨な事件が発生する……。

 にっかつロマンポルノの一作ながら、実際は成人映画の体裁を借りた社会派サスペンス作といった趣だ。

 当時34歳の樹木希林(この年の4月に改名)は教職員組合役員を演じている。事件に関して、あたかも音楽教師側に非があるかのように決めつけ、冷徹に突き放す。これは【パターン1】の役だといえる。

 同じ教職員組合役員役の蟹江敬三と共に永島暎子を追い込んでいくシーンは、1カット約4分間の長回し撮影で、舞台劇のような緊張感が生まれている。

 そこには笑いもなければ、救いもない。晩年のパブリックイメージしか知らない世代は、その徹底したヒールぶりに驚くこと必至だ。

『スター・ウォーズ』の影響下にある珍作品で不美人役を好演
『トラック野郎・突撃一番星』

監督:鈴木則文 配給:東映  1978(昭和53)年8月12日公開

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東映より発売の『トラック野郎・突撃一番星』DVD版ジャケット

『トラック野郎』のシリーズ第7弾。『スター・ウォーズ』(1978年/後に『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』に改題)、『未知との遭遇』(1978年)などの大ヒットにより、日本でも空前のSFブームが起きていた時代の制作で、その影響がモロに出ている。といっても、デコトラが宇宙を走るわけではない。

 樹木希林は、マドンナ・えり子(原田美枝子)の上司として登場。わざわざ前歯が飛び出した入れ歯を装着するなどして不美人が強調されている。まさに【パターン2】系統の役だ。

 主人公・星桃次郎(菅原文太)は、原田美枝子に一目惚れし積極的なアプローチを繰り返すが、その都度、樹木希林が割って入るというベタな展開が繰り返される。半分気を失った桃次郎との濃厚なキスシーンもある。

典型的な松竹喜劇に1シーンのみの登場で、渡瀬恒彦を圧倒!
『神様のくれた赤ん坊』

監督:前田陽一 配給:松竹  1979(昭和54)年12月28日公開

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松竹より発売の『神様のくれた赤ん坊』DVD版ジャケット

『男はつらいよ 寅次郎春の夢』の併映作。いかにも松竹風のライトな人情喜劇だ。

 売れない若手女優(桃井かおり)とマンガ家を目指す男(渡瀬恒彦)が同棲するアパートに、突然、見知らぬ客が訪ねてくる。その人物が告げたあることから、2人はひとりの少年を連れて広島から九州を旅することになる。

 樹木希林は、ストーリー上の起承転結でいえば「起」をもたらす珍客を面白おかしく演じる。

 【パターン4】のキャラクターで、突然やって来て、渡瀬恒彦に伝えたいことを一方的に伝え去っていく。それに圧倒され、ほとんど異論を挟むことができない渡瀬がおかしい。

正しく樹木希林が使われている、マニアックなアイドル映画
『クララ白書・少女隊PHOON』

監督:河崎義祐 配給:東宝  1985(昭和60)年2月9日公開

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東宝より発売の『クララ白書・少女隊PHOON』VHS版ジャケット

 1980年代の3人組アイドルグループ・少女隊の売り出しの一環として制作された作品で、監督を山口百恵、桜田淳子、たのきんトリオ、松田聖子と1970~80年代のアイドル映画を多く手がけてきた河崎義祐が務めている。

 原作は、集英社コバルト文庫のエース作家だった氷室冴子の代表作だが、原作ファンに好意的に受け入れられたのか、それとも大反発を買ったのか──インターネットがない時代にそれらが表面化することはなかった。

 キリスト系女子校の寄宿舎を舞台にした内容で、樹木希林はいわゆる“シスター”の役で出てくる。生徒たちをキツくいびることも、必要以上にボケることもない。ただ、そこにいるだけでなんとなく面白い。【パターン3】の役だろう。

 DVD化されることのない幻のアイドル映画であったが、現在はAmazonプライムで観ることができる。

吉永小百合のはかなさを強調する芸者役でテレビ版から続投
『夢千代日記』

監督:浦山桐郎 配給:東映  1985(昭和60)年6月8日公開

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東映より発売の『夢千代日記』DVD版ジャケット

『夢千代日記』はもともとNHKのテレビドラマシリーズで、1981年より3回にわたり全20話が放送され、いずれも高視聴率を獲得している。

 主演の吉永小百合は当時、30代後半。主演映画のヒットもあり「第二次小百合ブーム」が起きていた頃で、同作の映画化は自然な流れだった。

 吉永小百合が演じるのは、兵庫県の温泉街にある置屋「はる家」の女将・夢千代。広島生まれの彼女は胎内被爆者であり、白血病を患っているという設定だ。

 この映画版はシリーズの完結篇的な内容で、テレビ版と基本的な設定は変わっていないもの、周囲の出演者はほとんど入れ替わっている。そのなかでただひとり、続投になったキャラクターが、樹木希林演じる芸者・菊奴だ。

 華奢で美貌の持ち主ながら余命幾ばくもない夢千代とはあまりに対象的な、美人でもなければ若くもないが健康的で人一倍明るい芸者の役は、作品の暗さ、哀しさを緩和させる役割を果たしている。【パターン3】に該当する役だといえる。この時の彼女は42歳。ようやく役に年齢が追いついてきた印象もある。

 なんと、スキーをするシーンもあるが、もちろん予想通りのオチが用意されている。

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ミゾロギ・ダイスケ

ライター・編集者・昭和文化研究家/映画・アイドルなど芸能全般、スポーツ、時事ネタ、事件などを守備範囲とする。今日の事象から、過去の関連した事象を遡り分析することが多い。著書に『未解決事件の昭和史』(双葉社)など。

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