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ノーベル物理学賞「レーザー物理学における画期的な発明」に、「本当に物理学賞なの?」とのギモンの声

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2018年のノーベル物理学賞を受賞した、ドナ・ストリックランド博士(写真:ロイター/アフロ)

 2018年10月2日、今年のノーベル物理学賞が発表されました。初日のノーベル医学生理学賞に続き、日本人の受賞が期待されていましたが、今年は、「レーザー物理学における画期的な発明」を受賞理由として、「光ピンセット」の研究でアーサー・アシュキン博士、「レーザーパルス増幅:CPA」の研究でジェラール・ムル博士とドナ・ストリックランド博士がそれぞれ行った2つの研究内容をまとめる形で、この3名が受賞しました。

 ノーベル賞候補者は例年公表はされませんが、日本人としては、量子テレポーテーション研究の古澤明・東京大学教授や光格子時計研究の香取秀俊・東京大学教授など、毎年受賞予想に名前が挙がる方々もおり、今回も物理好きをにぎわせておりました。

 そもそもノーベル賞は、研究内容の評価が研究者の間でしっかりと固まってから受賞となるケースが多いため、よほど大きなインパクトを与えた研究でない限り、研究成果の発表から受賞までに長期間かかることになります。実際、今回のケースでも、最初の論文発表から30年以上たってからの受賞となりました。

 また今回、実に半世紀ぶりに、女性受賞者が誕生したことも大きな話題となりました。ストリックランド博士は、1903年のマリー・キュリー博士、1963年のマリア・ゲッパート・メイヤー博士に続き、史上3人目となる女性の物理学賞受賞者です。発表中継でも、同博士が電話で対応し、「これからもっと女性研究者が活躍することを望んでいます」と述べています。

 実際、ノーベル賞6部門(経済学賞も含む)のうち、文学賞、平和賞、また団体受賞を除けば、歴代の女性の受賞者は今回も含めると20名。内訳は、物理学賞3名、経済学賞1名、化学賞5名(マリー・キュリーは物理と両方受賞)、生理学・医学賞12名となります。世界的に見ても、ほかの自然科学分野に比べ物理学の研究者はまだまだ男性が多い印象はありますが、今回のストリックランド博士の受賞が契機となり、今後、物理学の世界においても女性研究者のさらなる活躍が期待されています。

そもそもノーベル「物理学賞」なのか問題

 さて、今回のノーベル物理学賞の正式な受賞理由は「for great inventios in the fields of laser Physics」、直訳すると「レーザー物理学分野における偉大な発明」というものです。

 しかし、物理学を多少なりともかじっている者からすると、ノーベル物理学賞といえばやはり「基礎研究」ーーニュートリノに質量があったことの発見、重力波の観測、トポロジカル絶縁体という新しい物質や理論(物理法則)の発見等々ーー要は、新たな観測結果による物理法則の検証や、新しい物質の発見、新しい理論の発見といった「基礎研究」が評価されて受賞するというものという印象が強い。

 ところが今回の場合、「レーザー物理学における画期的な発明」というのが受賞理由。つまり、基礎研究における「発見」ではなく、元来あった理論をもとにしての技術的な「発明」という側面が強いように感じます。またその発明が実際に利用されている先を見てみると、生命科学分野への貢献のほうが大きい。なぜなら今回の研究は、光学装置をはじめ、医学、工学分野でも応用されており、 身近なところでは医療技術としてレーシック手術で用いる装置に応用されていたりしますから。

 うーん、これはちょっと、「なにゆえ“物理学”賞なのか?」という疑問が……。というわけで、物理の研究者が実際のところ今回の物理学賞についてどう感じているのか、知人の物理研究者(素粒子物理学、物性学、原子核物理学の研究が専門)に聞いてみました。

受賞者たちの年齢も判断材料に!?

「なにゆえ“物理学”賞なのか?」という素朴な疑問に対しては、各氏共通して、「基礎科学や基本法則の検証といった、いわゆる基礎科学への新しい成果や貢献というよりも、むしろ、応用研究として医学その他の分野にまで波及し、社会の発展に寄与した、という点が受賞理由では」とのこと。「それは、ノーベル賞の創設を遺言したアルフレッド・ノーベルの言葉、『社会に多大な貢献した者に与えてほしい』という遺志からも納得できますよね」という意見もありました。

 ただし、以下のようなご意見も。

「受賞研究のひとつである“光ピンセット”は主に生命科学分野での貢献が大きく、対してもう一方の“CPA”はレーザー物理分野であり、両者の直接的な関連性は薄い。まあ、共に“レーザー光にまつわる研究”ということで、“抱き合わせ受賞”のような印象は確かにありますよね。

 このへんは、『ノーベル賞は存命中にしか候補になれない』という規定から、受賞者の年齢が関係したのかとは勘ぐってしまいます。特にアシュキン博士などは96歳と非常にご高齢ですから。ただ、いずれにせよ光ピンセットもCPAも共に大変有用な技術であり、社会に与えたインパクトはまさに“ノーベル賞級”。受賞自体はまったく問題ない判断だと思います」

 そこで調べたところ、2009年にも2つの研究を合わせて受賞した例がありました。今回の受賞理由とはもちろん違いますが、同じく光にまつわる研究で、「光ファイバー伝達の画期的業績」をチャールズ・K・カオ博士が、「CCDセンサーの発明」をウィラード・ボイル博士、ジョージ・E・スミス博士が同時受賞しています。

 こちらも「発明」に対する業績として与えられているので、今回のケースと似ています。なおこのときも、受賞者の年齢が当時それぞれ76歳、85歳、79歳と高齢で、現在、カオ博士とボイル博士はすでに鬼籍に入られています。年齢が受賞における評価に反映するのかどうかは気になるところですが、選定過程については授賞から50年たつまでは公表しないというのがノーベル財団の規定。そういった意味での謎は残りますが、いずれにせよどちらの研究も文句なしで受賞に値する業績であることは間違いないでしょう。

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