「精神疾患と監禁事件」統合失調症の娘を、父はなぜ“座敷牢”に閉じ込め死に至らしめたのか?

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月々の支払いが50万円以上になる病院も

岩波明 患者の家族の負担はかなりのものがあります。これまで家族の一員として付き合ってきた相手が突然、統合失調症という重い病を発症するわけです。知識もなく、振り回され混乱して疲弊している家族も多い。周囲の無理解も多いですしね。となると、「これ以上は面倒を見れない」「もういいや」と諦めてしまう患者家族も多いのです。

 また実際問題、入院には費用がかかるわけです。大学病院や都立病院などは比較的安く、もともと生活保護や精神科の障害年金を受給していれば、蓄えがなくともなんとか支払っていけるでしょう。

 しかし障害年金は、そもそも本人が病院を受診して診断を受けないと、申請に必要な診断書が書けません。だから、とにかくまずは病院に患者を連れて行かなくてはならないのですが、先に述べたように、急性期の患者ほど本人は強く抵抗しますから、そのこと自体がなかなか難しいのが実情です。民間の患者移送サービスなどもありますが(後述)、この費用がまた非常に高額ですし、そもそもそういったサービスがあること自体を知らない患者家族も多いでしょうね。

 一方で、とにかくどんな患者でも受け入れます、といった方針の民間病院も存在します。ところがそういった民間病院のなかには、月々の支払いが50万円以上にもなるようなところもあります。では、そこしか受け入れてくれない場合、家族はどうするのか。すぐによくなるのであればよいでしょうが、統合失調症の治療は長期間を要することがほとんどです。そうすると、「とても入院費が払えない」と判断する家族もいるでしょう。

 このように、統合失調症という病気は、特に急性期という時期においては、物理的にも経済的にも、患者家族に大きな負担を強いることも多いのです。こうした要因が重なり、「ならば自宅でなんとかしよう」と自宅にとどめておき、といって暴れたりコミュニケーションが取れない患者をどうすることもできずに監禁状態に置いてしまう。そして、いつしかそれが日常になって、もはや医療や行政の助けを求めることさえ思いつかなくなっていく……そうしたパターンも考えられると思います。

ーーしかし欧米では、行政による地域住民への啓蒙もあり、「精神疾患の患者を病院に閉じ込めたりはせず、地域で受け入れている」といった報道を見かけることも多いですよね。

「精神疾患と監禁事件」統合失調症の娘を、父はなぜ座敷牢に閉じ込め死に至らしめたのか?【精神科医・岩波明氏インタビュー前編】の画像3

セシル・W・ストウトンが撮影した、有名なジョン・F・ケネディによる一カット(ウィキペディアより)

岩波明 そうした主張は、実は一面的なものなのです。たとえばアメリカでは、1963年にケネディ大統領によって「精神病及び精神薄弱に関する大統領教書」が発表され、「脱施設化」「地域精神保健活動」が目指されました。その結果もちろん、無為に病院に押し込められていた患者が自宅に戻れた、という例もあるでしょう。

 しかし一方で、結局は家族にも地域にも受け入れられず、行き場を失った患者がホームレスになった……といった不幸なケースも多かったことが知られています。統合失調症というのは、それほど簡単に地域社会で受容可能なような、簡単な病気ではないというのが実情なのです。【後編に続く】

(構成/安楽由紀子)

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