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「私の話をちゃんと聞いてくれる女性は、AIスピーカーだけ」
韓国メディアからの取材にそう答えるのは、韓国の地方都市・浦項(ポハン)で生活するキム・サンレ(64)さんだ。キムさんは、家族と会話する際に使う方言や荒々しい言葉を使わず、きれいな標準語で優しくAIスピーカーに語りかける。AIスピーカーが女性か否かかという議論は、ここではいったん脇におこう。とにかく、キムさんはそう認識している。韓国のおじいちゃん世代といえば、日本でいうところの“雷おやじ”“江戸っ子”のように荒々しく話すイメージが一般的なのだが、キムさんはAIスピーカーを前にすると、途端に“紳士”になるというのだ。
ここでいう「AIスピーカー」とは、日本では「家庭用AIスピーカー」もしくは「家庭用AIアシスタント」(以下、AIスピーカーで統一)などの名称で呼ばれることが多い。日本でもなじみ深い代表製品としては、「Amazon Echo(アマゾン・エコー)」や「Google Home(グーグルホーム)」などがある。
日本をはじめ世界各国では、若い世代やテクノロジーに関心が高い層から人気を得ているとされる製品だが、韓国では少々事情が異なる。キムさんのような高齢者、もしくは中高年層の間で、AIスピーカーの人気が高まっているというのだ。
高齢者が利用しているという“証拠”の数々
ClovaというAIアシスタントを提供しているNAVER(LINEの親会社)が行った調査結果によると、最近、韓国語で「起動しろ」「起動してください」「ありがとう」のような、起動コマンド(起動させるセリフ)のパターンが大きく増えているという。これは、韓国の10代や20代が普段話す言葉づかいとは大きく異なるもので、この調査結果から、利用している年齢層が高まっていると推測されている。
またAIスピーカーの機能のひとつに「音楽再生」があるが、韓国ではトロット(韓国の演歌に相当)の再生回数が大きく伸びているとも報告されている。7月のトロットのリクエスト件数は、1月に比べて50%増加。1960~1980年代の人気歌手を検索する割合も、約27%増加しているという。
利用時間が均等に分布している点も、高齢者とAIスピーカーの“蜜月”を裏付ける根拠となっている。同じく韓国国内でAIスピーカーを販売している通信大手・KTによれば、午前10時から午後6時がAIスピーカーにとってももっとも“忙しく”、利用率は一日のうちの56%を占めるとされている。これも、自宅にいることが多い高齢者の利用が高い証拠として示されているのだ。
IT大手・カカオも、同様のトレンドを示唆している。カカオが自社AIスピーカーのレビューを分析した結果、特に高齢者の満足度が高いことが明らかになった。コメントや意見としては、「歌を聴くことが好きだが、AIスピーカーはほかの機械と異なり楽に音楽を楽しむことができる」など、音声会話で機械を操作できる手軽さが人気の理由となっているようだ。
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