日本は大学教育で得るメリットの男女格差が先進国で最大 対策に必要なのは「あれもこれも」の視点

連載 2018.10.23 05:15

女子教育が世界を救う/畠山勝太

 9月中旬にOECDの「図表でみる教育」が出版されました。毎年この季節になるとこの報告書から日本に関するデータがフィーチャーされて巷を賑わせます。今年、最も興味深かったのは「日本は大学で学ぶ金銭的なメリットの男女間格差が先進諸国で最大」という報告の原因についてネットで色々と言及されていた点です。

 そこで今回はOECDのデータを紹介するとともに、その原因に関する議論の問題点を指摘したいと思います。

大学で学ぶ金銭的なメリットの男女間格差

 図1は、男女別の大学で学ぶ金銭的なメリットを示しています。ほぼ全ての国で、女性が大学で学ぶ金銭的なメリットは、男性のそれを下回っています。この現象の原因について報告書は「この現象の原因には様々な要因が存在する。例えば女性の低い賃金、低い雇用率、パートでの雇用の多さ、男女間での大学の専攻の違いなどが挙げられる。安価で質の高い幼児教育が利用できるかどうかも女性の労働参加の結果(雇用率や賃金などー筆者補足)に影響を与える」といった解説をしています。

 日本のデータを見ると、女性が大学で学ぶ金銭的メリットはほぼ無いばかりか、男女間格差は先進国で最大となっています。報告書はこの結果について次のように解説しています。

「日本は男女間格差が最も大きく、その差は13倍にもなる。日本では税制と労働市場の構造が、女性の大学で学ぶ金銭的なメリットを引き下げる傾向がある」

 「税制?」「労働市場の構造?」と不思議に思う読者が多いかもしれません。しかし、本連載の熱烈なファンの方なら、本連載はすでにこれらの問題について解説してきたことを思い出すのでないでしょうか(きっとそんな人はいないと思いますが…)。

日本の女性は教育の恩恵を社会に手渡し過ぎている

 去年の10月に「日本の女性は教育の恩恵を社会に手渡し過ぎている」という記事を執筆しました。詳細はぜひもう一度記事を読み直して頂きたいのですが、ここでは要点のみまとめます。

 2017年の「図表でみる教育」によれば、日本の大学教育の私費負担額は約1300万円と、世界で最も重たいものになっています。その一方で、女性が大学教育を受けることによって日本政府は約1600万円のメリットを受けています(例えば、大学教育で知識やスキルを得ることによって、大学卒業者の生産性が向上し、大学卒業者の平均賃金が高校卒業者よりも高くなり、政府が累進的な課税をかけている場合、大学卒業者の納税額は高校卒業者よりも多くなるので、日本政府の税収も高くなります)。この金額はOECD諸国で29番中10番目と飛びぬけて多いわけではありません。しかし日本政府は、国民が大学教育を受けられるようにするためのお金をほとんど出していません。アメリカの場合、学費が高い一方で、れっきとした「奨学金」を政府がかなり出しているので、個人の負担は思ったほどには重くありません。日本の場合、学費はアメリカほど高くない一方で(大陸ヨーロッパと比べれば高いですが)、教育ローンでしかない「なんちゃって奨学金」を主に使っているので、個人の負担が重くなります。つまり日本政府は、国民に教育費の大半を負担させる一方で、そのアガリだけは他国以上に持って行く、「個人の努力にタダ乗り」しているのです。

 そして、政府の個人の努力にタダ乗りする割合が男女間で大きな差があることも日本の特徴です。先進国では、男性の方が納める税金の額が多い一方で、政府から受け取る支援が少ないので、男性の方が女性よりも大学教育を受けた恩恵を政府に手渡す割合が高い傾向があります。しかし日本はこのようなトレンドから大きく離れ、女性は男性の3倍以上の比率で大学教育を受けた恩恵を政府に手渡しているのです。このことは、女性のひとり親への支援が少なく、シングルマザーの貧困問題が大きな社会問題となっていることからも読み取ることができると思います。

 「図表でみる教育」はこうした日本の現状をみて、税制が原因のひとつであると指摘したのでしょう。

労働市場の構造的な問題?

 では、労働市場の構造的な問題とはいったいどんなものなのでしょうか?

 「女子教育の促進を阻害する男女の賃金格差」では、日本の男女間の教育・スキル格差が先進国で最も大きい点を指摘しました。これも過去の記事で、日本の女子教育は大学院への進学理系への進学トップスクールへの進学と、将来高い賃金が期待できる分野でことごとく課題を抱えていることを指摘したことを考えれば、この現象は起きるべくして起きているとも言えます。

 さらに日本は、女性が職場で研修を受けられている割合も、男女間での研修を受けられている割合の格差も先進国で最悪です。この職場における人的資本投資格差の問題を見過ごしてはいけません。実際に、男女間の教育・スキル格差に基づく賃金格差が先進国で最も大きくなっています。

 また、日本は教育やスキルの格差だけでは説明できない男女間の賃金格差も先進国で最も大きいという点も指摘しました。「日本の女性は職場でフェアに扱われていない」で解説したように、日本は女性が持つスキルが職場で上手く活用されておらず能力に比した活躍が出来ていない、という現実があるのです。

 つまり日本は、男女間の教育レベルの格差が先進国で最も大きい国の一つである一方で、職場における女性労働者への人的資本投資の格差が最悪で、さらに女性が持つスキルが活用されないという差別の程度が最も酷い国の一つというわけです。日本には、こうした労働市場の構造問題が存在しているのです。

あれかこれかではなく、あれもこれも

 ネット上では、日本の女性にとって大学で学ぶ金銭的なメリットがほとんどない問題について、「女子教育の問題だ」「いやいや労働市場(企業)の問題だ」という議論が散見されました。また、OECDの報告書では税制に言及があり、政府の責任を指摘しているにもかかわらず、これに言及する意見が殆ど見られなかったのは興味深いものでした。

 いずれにせよ、女性の労働問題に限らず、社会問題を完全に解決するためには、問題を引き起こしている全ての原因に対処する必要があります。また根本的な原因にも取り組まなければいけません。

 社会問題ではありませんが、私個人の問題を具体例として出してみましょう。私はこれまでアフリカ大陸とアメリカ大陸を2往復してきました。アメリカ大陸に住んでいる現在、徐々にメタボ気味になってきました。その原因として考えられるのは、研究をしている時に手を出してしまうお菓子(原因①)、休日前のお酒とおつまみ(原因②)、ジムでつらい有酸素運動をせずにバーベル・ダンベルで遊んでいる(原因③)の3点が考えられます。

 これらの原因のいずれかだけに対処した場合、いくぶんかマシになるかもしれませんが、完全にメタボの問題を解消することは出来ないでしょう。さらに、これらは、誘惑に負けてしまうという根本的な原因もあります。ここに対処しない限り、原因①②③を解消しても、ケーキに手を出すなど新たな原因が出てきてしまうだけです。

 この構図は全ての社会問題、つまり女性の労働問題にも完全に当てはまります。女子教育の問題(原因①)と、労働市場の問題(原因②)、税制の問題(原因③)のどれかひとつに対処しても、女性の労働問題が完全に解消されることはありません。むしろ、この3つの問題は、家庭・社会・政府におけるジェンダー観の問題(根本的な原因)によって形成されているわけで、ここに取り組まないことには教育と労働市場の問題は解消されないでしょうし、もし仮に現在の問題が解消されたとしても、別の形で問題が噴出することでしょう。社会問題を解消するためには、あれかこれかではなく、あれもこれもという視点を取り入れなければならないのです。

 私の専門分野である教育政策について言えば、途上国で男女平等に学校に通えるようにしようと授業料を無償化したところ、無料で質の低い公立校に女子・授業料有りの私立校に男子が固まってしまいました。また先進国でも女性の大学進学率を向上させようとした結果、卒業後に平均して低い給与しか見込めない分野に女性が集まることになりました。これらは、根本的な原因に対処せず、小手先で原因①に対処しようとしてしまった結果だと考えられます。

 社会が使える資源には限りがあるので、費用対効果分析に基づいて、どの原因に優先して取り組むか検討される必要はあります。しかしなにより大切なのは、あの原因かこの原因かではなく、あの原因もこの原因も、そして根本的な原因にも対処するような視点を持った上で、どういった対策を打つかという視点なのです。

まとめ

 記事の始めで紹介した、OECDの報告書による、日本の女性が大学で学ぶ金銭的なリターンがほとんどないことに関する解説には続きがあります。

「しかし、日本の女性が大学で学ぶことから得られる金銭的なリターンは、将来増加していくかもしれない。なぜなら、現在の政権はいくつもの対処策を打つことで、女性の労働参加を促進しようとしているからだ(内閣官房2016)」

 先進国のお金によって運営されている国際機関は、問題を強く指摘するのではなく、政府に忖度して今後への期待を表明してお茶を濁すところがあります。これは、いかにも国際機関の報告書らしい解説だと言えるでしょう。

 今月発足した第4次改造内閣の会見で安倍晋三首相は「今回、女性の入閣は1人だけだが、2人分も3人分もある持ち前の存在感で、女性活躍の旗を高く掲げてもらいたい」という発言しました。これを聞いて私は報告書が示すような未来は、きっとまだしばらくやってこないんだろうなと悲観しています。自国の問題は自分たちで何とかするのが筋です。国際機関からの指摘に頼ることなく、日本の男女格差の問題も自分たちの手で解決していかなければなりません。そのためにも、まずは日本の現状を正しく捉えた上で、あれかこれかではなく、あれもこれもの視点で、対策を考える必要があるのです。

畠山勝太

2018.10.23 05:15

ミシガン州立大学博士課程在籍、専攻は教育政策・教育経済学。ネパールの教育支援をするNPO法人サルタックの理事も務める。2008年に世界銀行へ入行し、人的資本分野のデータ整備とジェンダー制度政策分析に従事。2011年に国連児童基金へ転職、ジンバブエ事務所・本部(NY)・マラウイ事務所で勤務し、教育政策・計画・調査・統計分野の支援に携わった。東京大学教育学部・神戸大学国際協力研究科(経済学修士)卒、1985年岐阜県生まれ。

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