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当連載「スピリチュアル百鬼夜行」を初めてはや4年。「ネタがない!」と困ることが、まずありません。闇の向こうから次から次へと、トンデモ本が世に送り出されてくるからです。そしてそれに対し、真っ当な情報な本の少なさといったら。これは各種専門家の口から度々聞く嘆きでもありますが、〈真っ当なこと〉を書いても売れないのが現状。
トンデモだろうが脅し商法だろうが、本は話題をさらうインパクトが最優先なのですねえ……。空の上で自分は神様だったと語る小学生の本が30万部以上も売れたり、もはや殺人レベルのガン放置推奨本が老舗出版社から発行されたりしていて、それらは〈商売ですから〉と言わればそれまでですが、マジで嫌な世界だわーなんて思ったり。
それでもそんな中、素晴らしい本もちゃんと存在していますから、なんとか気力を保てます。本日は前回に続き、テーマは「読書の秋」。今、全力でお進めしたいトンデモバスター本をご紹介させていただきましょう。
1.日本の道徳や母性神話を解体しまくる『不道徳お母さん講座 私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか』
・二分の一成人式(10歳を祝い、親への感謝や将来の夢を述べる行事)
・巨大組体操(絆や伝統を謳いこの数十年で巨大化した、運動会の定番演目。そのサイズ高さ7m負荷200㎏という例もある)
・親学(発達障害や学級崩壊、非行は伝統的な子育てが崩壊したため‼と主張する教育論)
・誕生学(「生まれてきたことが嬉しくなると、未来が楽しくなる」をコンセプトに、妊娠出産をロマンチックに子どもに伝えるという教育プログラム)
・あたしお母さんだから(絵本作家のぶみが作詞を手掛けた歌。お母さんになったから、自分のことはひたすら我慢して身を削り子どもにつくすのよ~という趣旨の歌詞)
もしくは、もっとカジュアルにママ友や幼稚園保育園小学校、家族親戚間に漂う「正しいお母さん像」。
この手のものにゾワッとくるという人へ、今推したい本がこちらです(ちなみに上記の物件が全て登場するワケではありません)。キャッチコピーは〈日本の「道徳」解体新書〉。ライターで、二女の母である著者が〈家族愛〉やら〈絆〉といった感動ワードを押し付けてくる世の中に息苦しさを感じ、「人文知※という棍棒を手に、イヤなことはイヤと言おうぜ」と訴えかける、壮大な考察本です。※人文知=どのような人生を生きるべきかを考えるための教養

堀越英美 著/河出書房新社 Amazon
〈母の無償の愛〉や〈子どものための自己犠牲(=母性幻想)〉はなぜ美談として尊ばれるのか、膨大な文献の海を泳ぎ考察を巡らせる著者。そのルーツは誰もが子どもの頃に読み聞かせられた「物語文化」にあるのでは? として、道徳的とされる作品は人々に何を刷り込もうとしたのか、戦争を経てどのように母性幻想が生まれたのかなどをひもといていくのですが……これが、べらぼうに面白い。
『ごんぎつね』など、子どもの頃は義務的に読んでいたあの物語が、不道徳視点で語られると一気に愉快で不穏な物語に変身。与謝野晶子も著者にかかれば「女も経済的に自立せえ! とシバき上げるスーパーワーキングマザー」、北原白秋の詩集は「キス一つでゾンビの大群に襲われそうな退廃的な作風」。キャッチーな言葉でテンポよくぶったぎっていくので、この問題に苦々しい想いを抱えている当事者じゃなくとも、ページをめくる手が止まらなくなるでしょう。
やや蛇足ですが、同書を読むにあたっての注意点が2つ。ひとつはあまりにも情報量が多すぎて(嬉しい悲鳴)、脳が煮えそうになること。もうひとつは同書の「自分が幸せに生きるには?」「模範以外の価値観があってもいい」というごく真っ当な主張は、超解釈されると子宮系女子や心屋系を代表とする〈ご自愛教〉の燃料にされそうな点。「自分を生きる」「どこどこまでもわがままでOK」と謳うモラルハザード沼への活用を懸案事項に出されても、ご迷惑でしょうが……(いやホントすみませんね)。
2.ありがた迷惑な「おばあちゃん世代の育児常識」をやんわり解除『もう孫育てで悩まない! 祖父母&親世代の常識ってこんなに違う? 祖父母手帳』
お次は、〈自称先輩〉から古い育児法を押しつけられてムキー! となってるお困りママたちの盾となってくれる実用本です。とは言いながら、基本的には〈お孫さんができた皆様〉がメインターゲットでしょうけど。同書の監修は、小児科医の森戸やすみ先生。育児に正解はないけれど赤ちゃんを取り巻く環境は時代によって変わるから、「これだけは気を付けて欲しい」というポイントを知っておけばさらに楽しいお孫さんとの生活になりますよというものです。

森戸やすみ 監修/日本文芸社 Amazon
妊娠育児出産シーンで「これってどうなの?」となる項目をジャッジ&解説していくのですが、登場する項目の多くは、当連載が〈トンデモ〉と呼んでいるいわゆる医学的根拠のないデマ。