余命、あと6カ月。
余命宣告を受けてから、その時まであと6カ月余り。舞い散る落ち葉を眺めながら、「最後の秋」に思いを馳せてみる。
って、いやいや、すみません! 筆者の寿命の話じゃありません!! 30年慣れ親しんだ「平成」という元号の話。2019年4月30日をもって、「平成」が終わり、新元号が始まる。「昭和」と比較して、「新しさ」の象徴だった「平成」も新元号にその座を明け渡すことになる。
そう、我々は時代の過渡期、激動のさなかにいる。激動と言えば、「働き方」も激しく変化している。政府が掲げた働き方改革やテクノロジーの進化によって、こんな変化を体感しているはずだ。
✓どこでも仕事できるので、会社に出社しなくてもいい
✓副業しちゃってもいい
✓早く仕事を終えて退社した方がいい
10年前はどうだったか?
「出社・専業・長時間」が推奨されていた。つまり、現在とは真逆の働き方だ。オフィス出社しなくても、スマホ1つで複数の仕事ができる時代。1つ言えるのは、「オン(仕事中)」と「オフ(プライベート)」の境目が曖昧になってきていることだ。だからこそ、誰もが戸惑っている。具体例だと、プレミアムフライデーがうまくいってないのが、その証拠ではないか。
はたして、「オン」と「オフ」は共存できるのか? それとも、くっきり区分けすべきなのか? そんな問いに対する答えは筆者も模索中である。悩みながら答えを探していきたい。
筆者は、会社経営をしながら1年の1/3にあたる年間120日はスーツを着て講演活動をし、120日はカジュアル着でキャンプをしている。キャンプ熱が高じて、10年前にキャンピングトレーラーを購入。現在2台目となるキャンピングトレーラーを牽いて全国をまわり、これまで出版した2冊のほとんどは、キャンプ先で執筆した。トレーラーには強力な暖房が付いているので、雪山だってへっちゃらだ。
オンとオフの境目を行ったり来たりの生活をしていることから、「オン」と「オフ」の境目を私なりの視点で検証していきたい。「オン」の代名詞と言えば「スーツ」。対して、「オフ」と言えば、「アウトドア」がイメージしやすい。そして、アウトドアと言えば「焚き火」だ。
第1回は、「火は人との距離を縮めるのか?」を検証してみたい。
「どこでもドア」でキャンプ場へひとっ飛び!
2018年10月某日、スノーピーク昭島アウトドアヴィレッジ。日本のミドルマネージャーから絶大の支持をうける「日経ビジネス課長塾」のフォローアップ研修として、夕方から3時間弱、コピーライティングの法則を教える機会があった。
スノーピークとは、キャンプグッズを展開する高級アウトドアブランドだ。昭島アウトドアヴィレッジ内にあるスノーピークは、ショップの真横に木材チップが敷き詰められた庭を併設しており、テントが張れるようになっている。もちろん、焚き火をすることも可能だ。つまりショップでキャンプへのモチベーションが高まれば、キャンプ場へ即アクセスできる環境って感じ。ドラえもんの「どこでもドア」ってあるでしょ。それを手に入れたような軽い錯覚が味わえる。
スノーピークは、個人的にも愛着あるブランドで度々ショップを訪れるも、そこで仕事、それも講演する環境は初めてで、今年楽しみにしていた仕事の1つだった。スノーピークの商品は、高級ブランドだけあって、人気ブランドのコールマンと比較すると高額に属する。たとえばキャンプ仲間がスノーピーク商品を持っていると、「お、なかなかやるな」とか、「稼いでいるんだな」と邪推してしまうくらいのブランド威力がある。チタン製のマグカップは、1個6千円もする代物もあり、あんまり数多くは持てない。それが、スノーピークの椅子とテーブルに講義テキストが置かれ、淹れたてのコーヒーをマグカップ片手に受講者が講義開始を待っているのだ。
私のテンションも最高潮なのは言うまでもない。目を閉じ、大きく息を吸い込んで、笑みを押し隠して講義を開始した。
講義は、コピーライティングの法則を使いながら、対人コミュニケーションに応用するというもの。その合間に、店内にあるキャンプ用品「焚き火台」を見て触って、そのキャッチコピーを考える演習を行った。
受講者は、アウトドア派ばかりではない。「焚き火台」は日常使うものではないから、困難を予想したけれど、なかなかどうして! 意欲ある受講者全員、素晴らしいコピーを創り上げ、3時間近くの講義が終了した。ふと外を見ると夕闇が濃くなり、隣接する庭でスタッフが仕込んだ焚き火がゴウゴウと燃え始めていた。
講義教室から、焚き火と料理が待つ庭まで5秒の距離。さあ、スーツのまま「どこでもドア」をくぐって、キャンプ場へジャンプインだ!
火は人との距離を縮めるのか?
数台の焚き火台を数人のグループが囲い、ダッチオーブンで作られた鳥の丸焼き、ブイヤベースが供される。
酒量も増え、次第に笑い声が大きくなる。これぞ、キャンプの王道風景。いつもと違うのは、皆仕事帰りのためスーツを着ていることだ。
私は密かに1つの問いを持って、いくつかの焚き火台に集う受講者を代わる代わる巡ってみた。
その問いとは、「火は、人と人の距離を縮めるのか?」だ。
デザートを食べ始める終盤には、皆、焚き火を囲んで、炎一点を見つめ、いろいろ話をしていた。
先ほど作り出した焚き火台のキャッチコピーをこう直したいという直近の話、仕事の話、家族の悩み等。この日、初対面がほとんどだったにも関わらず、かなり打ち解け、踏み込んだ話まで展開されていた。
これはいったい何だろう?
人が進化してきた記憶が我々に刻まれているからだろうか。焚き火には、「明かりを灯す」「暖を取る」「外敵から護る」という3つの効果がある。その進化の源である焚き火を囲んで、炎を見つめる。饒舌な言葉などなくとも、不思議なまでの一体感が芽生えてくる。
そして、「食事」。漆黒の闇を照らす火に触れながら、文字通り同じ釜の飯を食するというのは、距離を縮め、打ち解け合う効果がある。研修講義後に、明るい照明の居酒屋で懇親会を行うが、なかなかこうも早く親しくなることはない。
やはり、火は、人と人の距離を縮めてくれる効果が確実にある。
懇親も深まったところで残念ながら、宴もたけなわ。いつものキャンプなら、自分のテントに戻り、寝袋に滑り込む時間だ。
もちろん、この日の風景は、奇妙に異なった。
ビジネスパーソンらしく、気持ちよく一本締め。冷たくなりつつある秋風を受け、「お疲れ様でした!」と挨拶し、三々五々駅に向かって帰り始めた。
研修翌日には、受講者から喜びの感想メールが数多く寄せられた。
「とても印象に残った研修だった」
「コピーに興味を持って、現場でも書くことを生かしていきたい」
など、通常の講義より数多くの声が届いた。
非日常的空間が、脳波を刺激したのだろうか。
キャンプという「オフ」ほど、「オン」から遠いものはない。「衣食住」をリセットしなければならないからだ。着替えなければならないし、食事は作らなければならない。物理的に場所が離れている。「時間」と「手間」が必要なのだ。
それらを「たった5秒」で解決することで、ビジネスへのエネルギーとすることができる。「オン」と「オフ」の境目に存在する川に橋をかけて、渡りやすくしたようなこの企画は、今後のオトナの仕事スタヰルと言えるのではないだろうか。
何しろ、「継続的に続けたい!」と願った私のモチベーションが誰よりも高まった経験だった。今後も自ら体験した言葉で「オトナの仕事スタヰル」を発信していきたい。