「1時間あたり100万円の“移送サービス”も」統合失調症患者の巨大な家族負担をどう考えるか

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強制入院権限を持つ中立機関の設立を

ーーそれでは、また別の事例として、周囲からの偏見の眼差しを恐れて、我が子の病気や障害を隠すために監禁する、といったようなケースはあるのでしょうか。

岩波明 実際問題、社会の偏見はいまだ大きく、「隠したい」と思う家族が多いことは事実です。しかし、それがために実際に監禁までいく……というのはやはり考えにくいのではないでしょうか。やはり、患者本人が病院に行くことを強く拒み、あまりにも暴力的で手がつけられなくなり家族が疲労困憊してしまい、その結果「なるようになれ」と投げやりになり、家に閉じ込めてしまう……というケースのほうが多いように思われますね、実感としては。

ーーでは、家族が統合失調症を発症してしまい、たとえば急性期でどうにも困った……などといったとき、我々はどこに相談すればいいのでしょうか?

岩波明 実はそこがいちばんのポイントなのです。実際問題、困ったときに家族が相談できて、入院先を見つけて病院と交渉し、しかも患者を入院させる権限がある……そうした中立的な機関は現状、日本にはないのです。都道府県にある精神保健福祉センターや市町村にある保健所も一応相談には乗ってくれますが、そこから先、入院させる権限はありませんし、行き過ぎた対処をして「人権侵害」と批判されることを恐れるために深く介入することを避けるケースも多い。現状では結局のところ、「ご家族でどうにか対処してください」と言われるだけでしょうね。

 それでは病院はどうか。もちろん病院も相談には乗ってくれます。しかし、病院側から家庭に出向くことはありません。「病院まで連れてきてくれれば対応します」ということですね。病院側も法律上、強制的に入院させる権限を単独で有してはいませんし、実際的にも、人員数の問題で家庭に出向くチームを編成することはちょっと不可能でしょう。

 しかし、患者が興奮状態にあると、一触即発のケースもあります。犯罪防止のためにも、本来はどうにかしなければならない。といって、警察は事件が起こらなければなかなか動いてくれません。

 ゆえに個人的には、緊急性を要する患者の場合、精神保健福祉センターがきちんと強制入院させる権限を持ち、現に困っている家庭の対処をすべきだと思います。行政側は「脱病院」「脱施設」を掲げ、「地域での支援」といったものを理想的なあり方として掲げてはいますが、冒頭で述べた通り、その目的としては「医療費削減」という側面も大いにある。そうした中で現実には、行き場を失った統合失調症患者を、やむを得ずに病院側が、ほとんど利益なしで引き受けているようなケースも多くあります。現実を見据えた対処が望まれると思いますね。

(構成/安楽由紀子)

【前編:「精神疾患と監禁事件」統合失調症の娘を、父はなぜ“座敷牢”に閉じ込め死に至らしめたのか?】

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