根底にある、韓国社会の“ナショナリズム”
ただしこの映画の成功は、韓国社会のリアルな闇も浮かび上がらせる。それは、中国人、そして朝鮮族に対する偏見意識である。韓国の雑誌記者パク氏(仮名)は言う。
「韓国社会では、地方差別や学閥差別もさることながら、先進国以外から来た外国人に対する差別が根強い。特に朝鮮族や脱北者など、“血としては近いが異なる存在”に対しては、徹底的に見下す傾向がある。本来、そのような風潮を牽制しなければならないメディアも、率先して偏見をあおっている節がある」
映画の登場人物たちのように、韓国に定住しながら暴力と略奪の限りを尽くす中国人マフィア、朝鮮族マフィアは確かに実在はする。ただし、そのような連中は実際には全体の数パーセントにも満たず、大多数は生活のために韓国に渡ってきた移民なのである。
しかし同作は、中国人もしくは朝鮮族の暴力性をこれでもかというほど強調し、強調し、また強調してみせる。表現としてはいささか不公平だ。これまで過去に何度か、朝鮮族(マフィアではない人々)が韓国国内で殺人事件を起こし逮捕されたこともあるが、その時に犯人の“異常性”を極端にあおって報道していたこととも、またニュアンスが重なる。
「朝鮮族と一言でいっても、実際には多種多様です。ビジネスを大きく展開したり、日本をはじめ海外のトップ大学に通う優秀な人たちもたくさんいる。貧しいながらも、韓国国内で一生懸命生きている人たちもまた同様です。そんな彼らがこの映画を観たら、きっと、小言のひとつふたつは言いたくなると思いますよ」(パク氏)
もしかすると、この『犯罪都市』の興行的成功は、韓国のナショナリズムの裏返しとも考えられるかもしれない。これまでの韓国のノワール映画といえば、『チング』に代表されるような、国内マフィア同士の争いを描いた作品が本流であり、人気作だった。
対する『犯罪都市』は、その構図の中にさらに、実社会でも偏見の対象となっている中国人&朝鮮族を配置してみせることで、異例の成功を遂げたとも解釈できる。単純化していえば、「悪い中国人&朝鮮族VS強い韓国人」である。一方で実際の韓国社会は、中国人観光客のインバウンド効果など、国内経済や生活の一部を中国に依存している側面がある。そんな複雑な思いを、この映画で発散している……との分析も可能だろう。
と、そんなことまで考えるのは、少々考え過ぎといわれるかもしれない。映画は映画で楽しむべきもので、とにかくこの『犯罪都市』は、間違いなく傑作ノワール映画のひとつだ。ただ、韓国社会に渦巻く中国人、朝鮮族への偏見や悪感情を踏まえれば、さらに深い見方もできるはずである。
【文/河 鐘基(ロボティア編集部)】
1 2