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「妻の様子がおかしい」そのとき夫が取る行動が、夫婦の明暗を分ける

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更年期

向き合います。更年期世代の生と性

夫やパートナーの理解が女性の更年期を左右する

 2016年12月よりスタートしたこの「向き合います 更年期世代の生と性」。約2年、更年期世代の女性と向き合い、インタビューを重ねるうちにわかったことがある。それは、「更年期を乗り切るために、一番側にいる人、つまり夫やパートナーの理解がいかに重要なものであるか」ということだ。

 だが、女性でさえ、更年期とはなんぞや、どんな症状があるのもよく知らない人が多いというのが現状である。そんな中で「僕、女性の更年期について詳しいんです」と言う男性は皆無と言っていいだろう、ドクター以外は。いや、たとえ婦人科のドクターであっても、更年期とその治療法について詳しくない人もいるという悲しい現実があるということは、この連載でも何度か書き綴っている。

更年期専門外来の医師の見解

 <女性の更年期に対する男性の理解>について、はたして婦人科のお医者さんはどのように考えているのだろう……。更年期専門外来である神奈川県の「こうレディースクリニック・江ノ島」の黄宗聖院長は、「男性が更年期を理解するかどうかで、家庭の在り方は大きく変わります。長年更年期の女性を診察する医師の立場としては、男性諸君にはもう少し奥さんの様子に目を配ってほしい! と言いたい」と語る。

「たとえば更年期によるうつ症状が見られる場合。更年期のホルモン減少によるうつ症状だと気が付かずに、精神科に行って抗うつ剤をもらってしまう人があまりに多い。次第にその薬に頼りっきりになり、依存してしまう人もいる。けれど、抗うつ剤では、更年期のうつ症状の場合は改善しない。その頃には、女性はもういろんな判断を自分ですることは難しくなってしまっていることもあります。

そんなときに男性が知識を持っていると『これはひょっとすると、更年期のうつ症状かもしれない。それなら精神科ではなく婦人科では?』と判断できる可能性もある。つまり、どん底に落ちる前に大切な人救い上げることができるということですよ。

実際にうちのクリニックでも、ご主人が奥さんの異変に気付き、引っ張るようにして病院に連れてきた、という例がいくつかあります。

ここで声を大にして言いたいのは、男性は奥さんの更年期を決してひとごとだと思わないでほしい、ということ。更年期は女性だけの問題ではなく、家庭の問題なんですよ。奥さんが元気でないと家庭は成り立たないですから」(黄医師)

 

あずささんの夫・潤一さん

 黄医師のお話を聞いて、私は過去にインタビューしたあずささん(43)の事例を思い出した。

 あずささんは若い頃から重いPMSに悩まされており、婦人科に相談すると抗うつ剤を処方された。抗うつ剤を服用することでPMSのイライラをやり過ごしていたのだが、出産を経て40代になると症状は重くなる一方に。やがて、気分の落ち込みや人に会いたくない、なにもやる気がおこらない、などの症状が生理前でなくともあらわれるように。段々と人が変わったようになっていくあずささんを見て、更年期かもしれないと考え、病院を探して予約を取り、クリニックに付き添ったのは夫の潤一さん(43)だったのだ。

 あずささんの様子を一番近くで見ていた潤一さんはその時、何を思い、どんなことを考えていたのだろう。ぜひ当時のお話をお聞きしたいと思い、取材のオファーを出したところ、潤一さんは快諾してくださった。

活発で笑顔が多く、好奇心旺盛でコミュニケーション上手な妻が……

――若い頃からPMSに悩まされていたというあずささんですが、潤一さんがそれを知ったのはいつ頃ですか。

「結婚してからです。奥さんからその話を聞かされるまで、僕はPMSという言葉も知らなかったしなんの知識もなかった。でも彼女から聞かされて、そういうことがあるのかと思い本を読んで少し勉強したんですね。それで、なんとなく理解するようになったんです」

――本を読まれたんですね! すごく勉強熱心でいらっしゃいます。

「自分の奥さんのことですから。どんなものなのか、やはり知っておいたほうがいいな、と。彼女が些細なことでイライラして当たる先は、やはり家族になる。つまり僕も被害者になるわけです。これはなんとかならないかと、自分を守る意味でも調べたんですよ(笑)。彼女の体調がよくないと、家族にとってもいい影響がない。うまく対処できる方法があるのなら、それを学んだほうがお互いのためにいいだろうと思い、その答えを本に求めたんだと思います」

――家族に当たるというのは、具体的にはどんな例がありましたか。

「ホントに些細なことですよ。脱いだものを片付けない、僕のものの言い方がぞんざいだ、とかで当り散らす。普段なら気にも留めないことでも、PMSの時期になるととことん責められる。そうすると僕も黙っておられず喧嘩になり……結果、家の雰囲気が悪くなるわけです」

――奥様がPMSで病院に行き、薬を服用することには賛成されていた?

「最初はそうでした。薬を飲むことで彼女の辛い症状が緩和されるのであれば、いいんじゃないかなと」

――そのお薬が抗うつ剤であることはご存知でしたか。

「はい。彼女から知らされていましたから。お医者様が出すものなら、間違いないだろうし、抗うつ剤を飲むことで一定の効果が表れるのならよしとしようと思っていたんですけど……」

――けど?

「段々と、抗うつ剤で症状を抑え込んでいるだけでは根本的な解決になってないんじゃないと思うようになったんですね。服用期間が長くなるうちに、副作用はどうなんだろうとか、薬をやめたらどうなっちゃうんだろう、って心配も出てきましたし。そのうちに、生理前だけでなく、それ以外の時期にも飲んでいることに気がついたんです。それだけでも心配なのに、次は奥さんにいろんな変化があらわれて……」

抗うつ剤に頼る彼女を黙って見ていることはできなかった

――具体的にはどういったものでしょう?

「人と会いたくない、外に出たくない、なにもしたくないと言い始めて。彼女はもともと料理が好きで、凝った料理が得意。一日中キッチンに立って楽しそうになにかを作ってる人だったんです。パン作りが得意でいろんなパンを焼いてくれた。でも気がついたときにはそういうことが一切なくなり、家でゴロゴロしているばかりに。子育ても楽しそうじゃなくなって……。僕が仕事から帰ると食事の準備をしてくれるんですが、それも当時は『義務だからやってる』という感じに見えました」

――そうなる以前の奥様は、潤一さんから見てどんなイメージでしたか?

「とにかく明るい人。笑顔が多くって人と接するのも好きで、好奇心旺盛なんです。家族になってからも『こんなところに行ってみようよ』『こんなことをしてみよう!』といつも彼女が次々と提案してくれていた。コミュニケーションを取るのがすごく上手な人です」

――それがまったく変わってしまった……。

「笑顔が消えてしまってましたね。抗うつ剤を飲まないと精神的に不安定になっているようにも見受けられましたし。本人も薬に頼っている自覚はあるみたいなんですけど、飲まずにはいられないようでした。それで、これはもうPMSだけの問題じゃないんじゃないかと、さすがに僕も不安になったんです」

――PMSではなく、うつ病ではないか。そんな風には考えませんでしたか。

「ええ。まずそう考えましたし、彼女もそうかもしれないと思っていたようです。でも、すっかり変わってしまった彼女が、ある日ぽそっと『私、更年期かな』とつぶやいたんです」

――潤一さんは、そのつぶやきに対してどのように感じました?

「彼女はまだ40代前半と若かったですし。僕は更年期について詳しい知識があったわけではないけれど、『それはまだ早いだろ』と、最初はそう思いました。なんとなく、もう少し年齢が上になってから症状が出るものだろうと思い込んでいたので」

――そうですね、一般的に更年期とは45歳から55歳をさします。

「ただ、抗うつ剤を出し続けるだけの婦人科のお医者さんに不信感があったので。更年期かどうかはわからないけど、本人がそう思うのなら一度、更年期に詳しい婦人科を受診してみてもいいんじゃないかと思ったんです。受診して違ったならまた次の手を考えればいい。そう思って、どこかいい病院はないかとインターネットで検索を始めました。そうすると通えそうな場所に良さそうな病院があることがわかったんです。ホームページを読んでみると、なるほど奥さんの症状に当てはまることが書かれている。それで彼女に『ここに行ってみればどう?』と提案しました」

 潤一さんの提案をあずささんは当初すんなりとは受け入れなかったという。そんなあずささんを、潤一さんはどのように支えたのか――。後編に続く。

日々晴雨

都内在住のフリーライター、更年期ジャーナリスト。いくつかのペンネームを使い分けながら、コラム、シナリオ、短編小説などを執筆。コピーライターとして企業のカタログやHPなどのライティングに携わることも。2017年にメノポーズカウンセラーの資格を取得。

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