民間の保険会社の宣伝文句によく、「高まる病気のリスクに保険で備えましょう」というフレーズが出てきます。多くの人はこのフレーズを何の疑いもなく、ごく当たり前のこと思い、そして医療保険に入ります。でもよく考えるとこのフレーズは極めて大きな矛盾だということがわかります。なぜなら、そもそも“高まるリスク”に保険は向いていないからです。
保険の本質は、①めったに起こらないこと、②でも、もし起こったら、とても自分の蓄えではまかなえないこと、③そしてそれがいつ起こるかわからないことの3つに備えるのがその役割です。
たとえば自動車保険を考えてみましょう。運転していて死亡事故を引き起こすなどということはめったに起きることではありません。でも、もしそうなったら何億円もの賠償金が発生しますから、それを自分では到底払えません。だから運転する人は保険に入らなければいけないのです。
最も大切なキーワードは「めったに起こらないこと」です。めったに起きないからこそ、安い保険料で対人無制限の保障が受けられるのです。これが車両保険だとどうでしょう。車庫入れする時にこすってしまうことはよく起きることです。起きる頻度が高いから、車両保険の保険料は対人賠償に比べて高くなるのです。
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リスクが高くなる=保険料が高くなる
だとすれば、“高まるリスクに保険で備える”というのは大いなる矛盾です。なぜならリスクが高まるとは“保険料が高くなる”ことと同義語だからです。
極端に言えば、仮に100歳以上の人ばかりが契約者となって組成する生命保険があったとすれば、保険金よりも保険料のほうが高くなってしまうかもしれません。年齢的に死亡リスクが高い人たちばかりなのですから、保険料が高くなるのも当然だからです。でもこれは「病気のリスクが高まってきたから医療保険に入りましょう」というのと本質的には何ら変わりはありません。つまり“高まるリスク”に保険は向いていないのです。
そもそも民間の医療保険に入っていなければ、無保険なのかといえば、決してそうではありません。日本は国民皆保険制度ですから、病気にかかったり入院したりしても、公的な医療保険で保障されます。さらに「高額療養費制度」があるので、仮に入院して月に100万円医療費がかかったとしても、実際の負担額はわずか9万円程度で済むのです。
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