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「選択的夫婦別姓制度」をニューヨークで記者会見〜アメリカの別姓事情

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Thinkstock/Photo by frimages

 日本でいま、選択的夫婦別姓制度を求める声が高まっている。サイボウズ株式会社の社長、青野慶久氏は「夫婦別姓が選べる法制度がないことは憲法に違反している」として、国を相手に訴訟を起こしている最中だ。その青野氏がニューヨークを訪れ、10月31日に現地の日系メディアを対象に記者会見を開いた。筆者は残念ながら記者会見に参加できなかったが、参考として夫婦別姓に関するアメリカの事情をリポートする。

 アメリカは夫婦別姓を認めている国だ。詳細は他の多くの法と同じく州によって異なるため、この記事では筆者が住むニューヨーク州の法を引用する。以下はニューヨーク市行政・婚姻局の公式ウエブサイトの【姓変更の選択】ページからの抜粋だ。ニューヨーク市はニューヨーク州の一部であり、同州法に基づいている。

婚姻時の姓変更について

・あなたが姓の変更を選ばない限り、婚姻によってあなたの姓が自動的に変更されることはありません。
・婚姻の際にあなたの姓の変更をあなたに求める法律はありません。改姓はあなたの個人的な選択です。
・あなたの配偶者(*)と同じ姓にすることを、あなたは求められません。
*「配偶者」という言葉が使われており、男女の区別はない。同性婚者も含まれる。

 上記、原文にある「you」「your」をすべて「あなた」「あなたの」として訳文に組み入れた。日本語と異なり、英語は主語を必須とする言語だ。すべて訳すと自然な日本語には聞こえないが、原文が当人の選択を強調していることがよく分かる。

「改姓」の4つの選択

 以下はニューヨーク州で婚姻時に改姓する際の4つの選択肢。

1)配偶者どちらかの姓
 アーティストのマルコ・ペレゴは、映画『アバター』で知られる人気女優、ゾーイ・サルダナとの結婚に際し、妻の姓を選んでマルコ・サルダナと改名している。

2)配偶者どちらかの旧姓
 自身の過去の婚姻・離婚、親の婚姻・離婚、または養子縁組などあらゆる理由によって旧姓がある場合、旧姓を婚姻後の姓にできる

3)配偶者それぞれの姓、旧姓、またはその一部をひとつの姓に組み合わせたもの
 元ロスアンジェルス市長、Antonio Villaraigosaの姓は、自身の旧姓「Villar」と妻の旧姓「Raigosa」を組み合わせてひとつにしたもの。余談になるが、元市長はのちにテレビ・リポーターとの浮気が発覚して離婚しているが、その後もVillaraigosa姓を維持、使用している。

4)配偶者それぞれの姓や旧姓をハイフンで繋いだもの。
 (2)(3)同様、あらゆる理由による旧姓を使え、2つ以上の旧姓を繋ぐことも可能だ。女性が婚姻に際して自身の姓と夫の性をハイフンで繋ぐのは比較的多く見られる。ヒラリー・クリントンの旧姓はヒラリー・ロダムだが、ビル・クリントンとの結婚に際して「ヒラリー・ロダム・クリントン」(ハイフン無し、スペースのみ)に改姓。ただし長くなるため日常では「ヒラリー・クリントン」を使うことも多い。また、アメリカ人の多くはミドルネームを持つため、ヒラリーも婚姻後のフルネームは 「Hillary Diane Rodham Clinton」となっている。

アメリカで結婚する日本人女性

 日本人女性がアメリカで結婚する際も、自身の日本姓のみとするケース、夫の姓のみとするケース、自分の姓と夫の姓をハイフンでつなぐケースがある。例:「Yuki Tanaka-Gonzales」。

 別の手法もある。日本人はミドルネームを持たないため、夫の姓を名字とし、自分の姓をミドルネームとして申請し、維持する。この場合、日本の姓は姓ではなくなり、姓は夫のもののみとなる。例:「Yuki Tanaka Gonzales」 Tanaka はミドルネーム、Gonzales が姓なので、日常生活では「Yuki Gonzales」と名乗る。

 アメリカでも政府、銀行、クレジットカード会社など、あらゆるデータベースに氏名を登録するが、中にはハイフンを受け付けず、スペースのみとするものがあり、さらにハイフンの有無にかかわらず、アメリカ人にはアジア系の姓と名の区別がつきにくい。したがって、もっともシンプルな形態の「Yuki Gonzales」にしない限り、なんらかの “ややこしい” 事態を招く。正確に名乗っても「え?」と問い返されたり、アジア系の姓でデータベースに当たるべきところを、英名(この場合はスペイン語名)の姓でサーチし、「該当なし」と言われるなど。そもそも、いくら正確に名乗ろうが、書類に記入して提出しようが、慣れないアジアの名は綴りを間違えられる。しかし、自身のアイデンティティ維持のために日本の姓をなんらかの形で維持する女性が少なくない。

 ニューヨークタイムズの結婚に際する改姓についての記事でも、女性が自身の姓を維持する理由は、かつてのようにフェミニズムに基づく政治的な意識よりも、自身のアイデンティティ維持となっている。特にアジア系やヒスパニックの女性が英名の男性と結婚する際、自身のエスニック特有の名でなくなることに違和感を持つとある。具体的には「私の名字はChang(もしくはKim, Suzuki など)なのに、Johnson って、なんだかしっくりこない」ということだ。また、人種やエスニックにかかわらず、結婚する前に一緒に暮らし始めるカップルも多く、すると結婚に際して改めて姓を変える必要性を感じないとある。

 いずれにせよ、近年、結婚する女性の20%程度が自身の姓を維持しているとのこと。ただし職業的な地位の高い女性に限ると30%程度と比率が高まるようだとも書かれている。

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堂本かおる

ニューヨーク在住のフリーランスライター。米国およびNYのブラックカルチャー、マイノリティ文化、移民、教育、犯罪など社会事情専門。

サイト:http://www.nybct.com/

ブログ:ハーレム・ジャーナル

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