「子供を産まないことは悲しいことじゃない」あらゆる属性の人が堂々と共存できる社会づくりを政治に期待する

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Thinkstock/Photo by Rawpixel

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 2016年、『コンビニ人間』(文藝春秋)で第155回芥川龍之介賞を受賞した作家の村田沙耶香が11月3日、ニューヨークの日米交流団体ジャパン・ソサエティーでトークイベントとサイン会に出席した。

 同イベントで村田沙耶香は、女性の出産が話題となると、自分らしく幸せに生きれば子供を産まないことは「悲しいことではない」と持論を語った。さらに、日本では女性は子供を生み、育てることが当たり前とされている現状に「子孫を残すためでなく、自分として幸せに生きれば、人がいなくなっても悲しいことではない。全ての人が自由に生きればいい」と発言したという。

 なんとも村田沙耶香の作風に沿った言葉で、ファンにはグッとくるものだろう。『コンビニ人間』では、恋人を作らず、大学卒業後も就職せずコンビニでアルバイトを続ける36歳の女性が、周囲から「結婚しないの?」「なんでアルバイトなの?」といった“常識”を問われ続けることへの違和感や嫌悪感が巧みに表現されている。

 村田沙耶香は、そういった“常識”がいかに人を傷つけ、精神的なプレッシャーを与えているのかを冷静な筆致で記す。人の生き方に、ごく個人的な見解や、独善的な当たり前を押し付けることの危険性を訴えているように思える。

子供を産まない人間は支援されないのか

 直木賞作家の西加奈子も、先月放送された『ボクらの時代』(フジテレビ系)に出演した際、結婚して最も嬉しかったことについて、「『結婚せぇへんの?』って言われなくなったのが、めっちゃストレスフリーやねん」と語っていた。世間からの「結婚すること」「子供を生むこと」への圧力は非常に強いことが伺える。

 そして、その最たる例として挙げられるのが、大きな話題を呼んだ自民党の杉田水脈議員が『新潮45』2018年8月号(新潮社)に寄稿した『「LGBT」支援の度が過ぎる」というタイトルのコラムではないだろうか。

<子育て支援や子供ができないカップルへの不妊治療に税金を使うのであれば、少子化対策のためにお金を使うという大義名分があります。しかし、LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり「生産性」がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか>

 現役の国会議員がLGBTだけでなく子供を産まない・育てない人間に対して、ここまで強烈な差別を主張したことを鑑みれば、子を持つことへの圧力は恐ろしく根深い。ちなみに、このコラムには当然多くの批判が寄せられ、杉田水脈議員はこのような釈明を発表している。

<私は、日本社会はもともと寛容な社会であり、性的マイノリティとされる方々に対しても、思いやりや気配りの延長として、必要であれば法整備を行い、お互いに違和感なく生活できる社会を構築することが必要だと考えております>

 「寛容」という言葉を使うのであれば、まず生産性のアリナシで人を選別しないことだ。どのような属性であろうとあらゆる人が、世間から生き方を指示・強要されることなく、分断されずに共存していける社会を整備することが政治家の仕事だろう。

 村田沙耶香が指摘するように、「子供を産まないことは悲しいことではない」という価値観を、どれだけの政治家が理解しているだろうか。「子供が欲しい人が望む数の子供を持てて、育てることができる社会」を目指すだけでなく、「今は子供を持ちたいとは思わない」「結婚に興味はない」という考えも受け入れられる寛容な社会づくりを試みてほしい。

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