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ハロプロもももクロも泣いている!? 解体決定の中野サンプラザがそれでも必要とされるこれだけの理由

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1973年に開業した中野サンプラザ。2222人収容(公式サイトより)収容のコンサート会場のほか、上層階には宴会場やホテルも有する。

 これまで多くのアーティストがコンサートを開催し、“アイドルの聖地”としても親しまれてきた東京・中野区の中野サンプラザ。日本の音楽シーンにおいても重要な存在である、この中野サンプラザの建て替え計画が波紋を呼んでいる。

 すでに開業から45年がたっている中野サンプラザは、施設の老朽化もあり、建て替えの必要性が指摘されていた。そんななか、田中大輔・前中野区長在職時に、中野サンプラザと中野区役所を解体し、1万人収容規模のアリーナを含む新施設建設が計画されたのだ。しかし、建て替え計画に反対する区民も多いなか、今年6月の同区長選で“計画見直し“を掲げて出馬した新人の酒井直人氏が当選。中野サンプラザ建て替え計画の行く末に注目が集まることとなった。

 しかし、結局のところ酒井・新区長は、9月18日に行われた定例会見で、中野サンプラザ解体を進めると明言。それと同時に、その後継施設は現在の中野サンプラザのDNAを引き継ぐものとする方針を明らかにした。また、1万人規模のアリーナを望む声は少数派だったということで、現状と同規模をベースに検討していくのが好ましいのではないかとの自身の考えも表明。そして、10月29日には中野区内で「区役所・サンプラザ地区再整備推進区民会議」が開催され、そこで酒井区長は、2024年前後に解体する方向で考えていると述べた。

 当初の“1万人規模のアリーナ建設”から、“現状と同規模をベース”に変化したということで、まさに酒井区長となって計画は見直しされたこととなる。これまで何度も中野サンプラザでコンサートを開いてきたアーティストや、中野サンプラザでのコンサートを楽しんできた音楽ファンたちは、今回の計画見直しにひとまずホッとしているのではないだろうか。

中野サンプラザの、“2000人規模”という絶妙さ

 そもそも中野サンプラザは、その大きさこそが最大のストロングポイントといえるだろう。アリーナとなると、客席からステージまでの距離が遠くなり、さらには音響的にもいまひとつとなってしまいがちだが、適度な大きさの中野サンプラザは、どの席からもステージが良く見え、音響も素晴らしく、さらにはJR中野駅北口の目の前という好立地。素晴らしい音を届けたいアーティストにとっても、そんなステージを心ゆくまで楽しみたい観客にとっても、理想的なホールなのだ。

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中野サンプラザの公式サイトより、ホール紹介ページ

 そして、“2000人規模”という絶妙な収容人数もまた、中野サンプラザが多くのアーティストに利用される理由のひとつ。特にここ数年は、アイドルグループがその“ブレイクへの足がかり”として、「中野サンプラザでの単独コンサートで2000人を集めること」を目標として掲げる……といった現象も起きている。

 アイドルグループの“出世”は、単独ライブの会場で表されることが多い。最初の目標となる単独ライブの会場は、キャパシティ500人ほどの「渋谷WWW」あたり。その次は、「新宿BLAZE」(キャパシティ800人)、「新宿ReNY」(キャパシティ800人)、「恵比寿LIQUIDROOM」(キャパシティ900人)など。1000人以上のファンを集められるようになったら、「マイナビBLITZ赤坂」(キャパシティ1300人)、そしてオールスタンディングで2000人以上を収容できる「Zepp TOKYO」、「Zepp DiverCity」……と、“出世”していく。

 そして、こうしたライブハウスにおける出世を経験した先にあるのが、「中野サンプラザ」である。Zeppクラスも2000人収容できるが、それはあくまでもオールスタンディングで超満員になった場合のことで、1500人ほどの集客でもそれなりに形になる。しかし、座席つきで2000人が入る中野サンプラザを満員にするには、本当に2000人を集めなければならない。中野サンプラザでの単独コンサートを成功させるのは、それだけハードルが高いことなのだ。

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中野サンプラザでライブを行うアイドルグループの代表格といえば、やはりハロプロであろう。(写真は、hachamaより発売の『Hello! Project 20th Anniversary!! Hello! Project 2018 WINTER 〜PERFECT SCORE・FULL SCORE〜』Blue-ray版ジャケット)

 アイドルがライブをやる会場として中野サンプラザより大きなホールとなると、5000人収容の「東京国際フォーラムホールA」や「パシフィコ横浜国立大ホール」などがある。そして、その先にあるのが、1万人規模の「日本武道館」、1万5000人規模の「横浜アリーナ」、2万人規模の「さいたまスーパーアリーナ」などのアリーナだ。

 つまり、ライブハウスとアリーナを繋ぐ役割を持つのが中野サンプラザであり、だからこそブレイク寸前のアイドルグループにとっては、かなり重要な会場となってくるわけだ。また、アイドルグループだけでなく、多くのアーティストやバンドにとっても、“今後のブレイクへの足がかり”としては、同じく重要な存在であることに変わりはないだろう。

いまだ続く、音楽業界の「2016年問題」

 さらには、伝統ある会場ということもあってか、ベテランアーティストのコンサートが頻繁に行われているのも中野サンプラザの特徴だ。ちなみに、2018年11月に中野サンプラザでコンサートを行った、もしくは行う予定のアーティストをピックアップしてみると、OKAMOTO’S、ゴダイゴ、CRAZY KEN BAND、きゃりーぱみゅぱみゅ、Negicco、ももいろクローバーZなど。これだけでも、かなり幅広いアーティストが中野サンプラザでコンサートを開いていることがわかるだろう。

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ももいろクローバー(当時)から早見あかり脱退した際、その“ラストライブ”の会場として選ばれたのも、中野サンプラザであった。(写真はキングレコード発売の『4.10中野サンプラザ大会 ももクロ春の一大事〜眩しさの中に君がいた〜』Blue-ray版ジャケット)

 また、音楽業界において「2016年問題」と呼ばれた問題も無視することはできないだろう。これは、2015年あたりまでに、都内の2000人規模のホールが次々と閉鎖、もしくは建て替えのための解体となってしまったことを指す。新宿の「東京厚生年金会館」は2010年に閉鎖、「五反田ゆうぽうとホール」は2015年に閉鎖となり、「渋谷公会堂」は2015年に建て替えのために解体してしまった。

 渋谷公会堂は2019年11月に2000人規模のホールとして新装オープンとなる予定だが、現時点では、都内の2000人規模の有名コンサート会場は中野サンプラザのみという状況。たとえ渋谷公会堂が復活しても、2000人規模の中規模ホールの不足は続くだろう。そのうえで、もしも中野サンプラザがアリーナとなってしまったら、今度は2000人規模のホールが渋谷公会堂だけとなってしまい、状況は一向に改善されない。ホールでのコンサートを開きたいと思っても、会場が少ないがゆえに借りることができず、出世のチャンスを逃してしまうアーティストも出てくるだろう。それは、音楽業界にとっても大きな機会損失なのである。

望まれる、多様なコンサート会場の拡充

 CDが売れなくなった今の時代、音楽ビジネスは“ライブ”に重心を移動させつつある。サブスクリプションサービスなどで楽曲を聞いて興味を持ったリスナーを、いかにライブ会場に呼び、そこでグッズなどを買ってもらうか──そんな努力が必要とされる時代だ。いわば“新規ファン”をライブ会場に呼ばないと、売り上げが確保できないのだ。

 しかし、新規ファンにとって、ライブは少々ハードルが高い。特にオールスタンディングのライブハウスともなれば、激しいノリについていけないという人や、観客が密集しているのが苦手という人もいるだろう。そういった新規ファンの不安を考慮した場合、比較的ゆったりとライブを楽しむことができるホールはとても重要な存在となる。つまり、2000人の観客でパンパンになったライブハウスよりも、全席指定の2000人規模のホールのほうが行きやすいという新規ファンは多いはずであり、そんな新規ファンを獲得するためにも、2000人規模のホールが必要なのだ。

 新規ファン向けという意味では、もちろん座席つきである1万人規模のアリーナの需要もあるわけだが、2000人規模のホールに比べれば、会場の数は足りており、貴重な中野サンプラザを潰してまで1万人規模のアリーナに建て替えるのは、やはり愚策なのではないだろうか。また、同様に新規ファンにとって快適なライブ会場ということでは、1000人規模や数百人規模のホールという存在も今後重要になってくるだろう。“ライブで儲ける”というビジネスモデルに移行するならば、多様な音楽ファンの需要に応えるために、多様な会場が必要となるはずだ。

 施設の老朽化もあり、中野サンプラザの建て替えそのものはもはや回避できない。そんななかで現状と同様の2000人規模のホールとして建て替える方針であるとのニュースは、音楽業界にとっては朗報だ。そして、できることならば中野サンプラザ以外にも、ジャンルを問わず出演できる2000人規模のホールが都内近郊にオープンすることが望ましい。日本の音楽業界を支えるためにも、コンサート会場を充実させることは、重要なミッションなのだ。

(文/青野ヒロミ)

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