坂元裕二が『東京ラブストーリー』から「社会派作家」に変貌した理由

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 育児放棄された少女(芦田愛菜)と、彼女を救うために誘拐犯となる小学校教諭(松雪泰子)を主人公としたこの作品のなかで、坂元氏は娘を虐待するようになってしまった母親(尾野真千子)にも、「シングルマザーとして仕事と育児に追われる辛さ」「育児で自分の時間を奪われるストレス」など、それ相応の理由があるということを丁寧に描いた。

 そのストーリーは視聴者から大きな反響を呼び、子育てに悩む人たちから「救われた」「他人事とは思えなかった」といった声も届いたという。

 実は、これは坂元氏自身の体験でもあった。

 35歳のときに娘が生まれたが、仕事に出かける妻を見送った後は、自宅で仕事をする坂元氏がかかりっきりで世話することになる。仕事をしながらひとりっきりで娘の面倒を見るのは大変だった。手をあげることこそなかったが、怒りなどの負の感情を抱いてしまうことはあったという。

 そういった育児の体験が『Mother』という物語に変わっていく。

 そのように、自らの生活に着想を得たストーリーが多くの人の感動を呼んだという事実は、坂元氏にひとつの気づきを与える。『プロフェッショナル』のなかで坂元氏はこのように語っていた。

<子どもが生まれるまでは、自分は作家だと(思っていた)。だから、遊ぶことが大事なんだとか、友だちとお酒を飲んで刺激を受けたり、それが作家としての生き方なんだと思ってたんだけど、自分は生活してるんだっていうことをね、実感したし、日常っていうのは絶対に追いかけてくるし、それを捨てちゃいけないんだなっていう。こっちのほうがよっぽど大事なことだっていうことがわかったんですよね>

 坂元氏にとっての日課は毎朝5時に起きて娘のお弁当をつくることだというが、それは日常とのつながりを常に絶やさないための営みでもある。『プロフェッショナル』のなかで坂元氏は「脚本家」という仕事について、このような矜持を語っている。

<才能とかそんなのってあんまり当てにならないし、何かひらめくっていうことも当てにならないし、そういうときに本当に書かせてくれるのは、その人が生活しているなかから出てくる美意識とか。自分が世界とちゃんと触れ合っていないと生まれないから。やっぱりパソコンに向かっているだけとか、飲んでるだけとか、そういうところからは生まれない>

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