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インスタで流行する自己診断の「脱ステロイド」がいかに危険か〜でっち上げられたステロイドの害

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Thinkstock/Photo by Halfpoint

 「アトピービジネス」という言葉をご存じでしょうか。アトピービジネスとは、アトピー性皮膚炎の患者さんをターゲットにローションやクリーム、サプリメント、民間療法などを売りつける商売を指す造語で、皮膚科医の竹原和彦氏の著書のタイトルです。ひと昔前、このアトピービジネスが大流行し、ステロイドの副作用が実際よりも酷いように誇張されて広められました。

 そして、現在またフェイスブックやインスタグラムなどのSNSで「脱ステ」「脱ステロイド」が流行しているようです。そこで、ステロイドが本当に悪いものなのかどうか、11月29日に発売されたばかりの『新装版「ニセ医学」に騙されないために』(内科医・名取宏 著)から「ステロイドは悪魔の薬?」の項を転載します。

ステロイドは悪魔の薬?

 私が研修医だったときの話である。自己免疫疾患を患う60歳代の女性・山田さん(仮名)が入院された。自己免疫疾患とは、本来であれば外部から侵入した病原体を攻撃すべき免疫系が誤って自分の臓器を攻撃し、炎症を起こしてしまう病気である。

 山田さんの主な症状は、発熱、筋肉痛、関節痛だった。外来の主治医は炎症を抑える薬・ステロイドを使ったほうがよい病態だと判断したが、山田さんは副作用を心配してステロイドの使用に消極的であった。そのため、やむを得ずステロイドを投与する以外の治療を行った。治療方針は、研修医の私ではなく指導医が考える。一方、採血は研修医の仕事だ。研修医同士で練習はしていたものの、何度も採血されて細く固くなった山田さんの血管から採血するのは難しかった。私はしばしば失敗したが、山田さんは「仕方がないね」と笑って許してくれた。

 私の採血の腕前は向上したが、山田さんの病状は次第に悪化。関節痛および筋肉痛のためにベッドに起きあがることも困難になって、ようやくステロイドの使用に同意していただくことができ、投与を開始した。効果は劇的だった。みるみるうちに熱は下がり、関節痛および筋肉痛も改善し、山田さんは目に見えて元気になった。

 その後、ほどなくして、ステロイドの副作用によって持病の糖尿病が悪化し、インスリンを使用せざるを得なくなった。体重が増加し、満月様顔貌といって顔がふくらんで丸くなった。退院後は、外来でステロイドの投与量を調整したが、数年後に大腿骨頭壊死を起こした。

 ステロイドは、生殖腺(卵巣・精巣)や副腎皮質という臓器で作られるホルモンだが、人工的に合成されて薬として使われる。ステロイドにはさまざまな種類があり、その作用も多様である。スポーツ選手に対して筋肉を増強する作用を期待して使われるとドーピングであるが、病院では抗炎症作用を期待して使うことが多い。山田さんに対しても、自己免疫による過剰な炎症を抑制するために使用した。

 確かにステロイドは、副作用が多いために悪評高い。山田さんには、糖尿病の悪化、体重増加、満月様顔貌、大腿骨頭壊死(特発性ステロイド性骨壊死症)が生じた。他にも易感染性、胃潰瘍、精神症状、高血圧、白内障などが現れることもある。

 しかし、ステロイドが悪者にされる最も大きな理由は、アトピー性皮膚炎に対する外用ステロイドの副作用が広く知られたことにあるだろう。アトピー性皮膚炎の原因のひとつは皮膚の慢性的な炎症であり、炎症を抑えるステロイド外用薬(塗り薬)が有効だ。ただ、外用ステロイドを使うと、糖尿病などの全身性の副作用は稀であるが、皮膚が委縮して薄くなるなどの局所的な副作用が生じうる。

 かつて、アトピー性皮膚炎に対する外用ステロイドの副作用が、テレビのニュース番組をはじめとしたマスコミで大々的に扱われたことがあった。医師の説明不足や安易な処方によって生じた外用ステロイドの副作用があったのは確かであり、不適切なステロイド使用に対する批判は正当である。

 ところが、アトピー性皮膚炎をターゲットにした民間療法をビジネスにする者たちによって、ステロイドの副作用は過度に強調されすぎた。外用薬では稀である全身性の副作用が容易に生じるかのようなデマもばらまかれた。ステロイドに対する不安を煽れば、民間療法を選ぶ患者さんが増えるからだろう。外用ステロイドに限らず、ステロイド剤全般を「悪魔の薬」呼ばわりする代替医療の推進者もいる。彼らが言うには、自然治癒力を高めれば(たいていの場合、自然治癒力を高めると称するなんらかの商品をすすめられる)、副作用の多いステロイドなんかを使わなくても病気が治るという。本当に副作用なく病気が治るなら、患者さんにとって大きな福音であるが、彼らが証拠を提示することはない。

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