インスタで流行する自己診断の「脱ステロイド」がいかに危険か〜でっち上げられたステロイドの害

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Thinkstock/Photo by daizuoxin

 「医者は金儲けのために不必要なステロイドを使う」といった主張もある。抗がん剤なら高価であるため、そういう陰謀論はまだ理解できなくもないが、標準的なステロイド内服薬は1錠10円以下である。代替医療のほうが高い。

 ステロイドがなかった頃、自己免疫疾患は自然治癒していたのだろうか。自己免疫疾患の一種にSLE(全身性エリテマトーデス)という病気がある。腎臓・関節・皮膚・神経などに広く臓器障害が起こる疾患だ。かつてSLEは致死的な疾患だった。SLEの5年生存率は50%以下で、もちろん自然治癒などしなかった。しかし、現在では5年生存率は95%以上に改善した(※1)。治療の中心は、ステロイドの投与である。ステロイドは副作用が多いものの、多くの自己免疫疾患の患者さんの命を救ってきたことも事実だ。山田さんも、ステロイドを使わなければ、亡くなっていただろう。

 SLE以外にも、ステロイドによって予後が改善した病気はたくさんある。気管支喘息は、主にアレルギーによる気管支の炎症によって気道が狭くなり、呼吸苦や喘鳴を引き起こし、ときには死亡することもある病気である。気管支の炎症が原因であるから、ステロイドが効く。気管支喘息に対する標準治療の基本は、吸入ステロイドだ(必要に応じて、気管支拡張剤や抗アレルギー剤などの他の薬も併用する)。「吸入」というのは、薬剤をエアゾールや粉末の形にして吸い込むことで、主病変である気管支に直接投与する方法である。局所に投与するので、全身投与と比較すると少量でも効く。重症の場合はステロイドの全身投与を行うが、吸入ステロイドで症状がコントロールできていれば局所投与で済むために全身性の副作用はほとんどない。

 「ステロイドが使われるようになった1990年以降、喘息は死に至る可能性の高い危険な病気になってしまった」などと主張する代替医療の推進者もいるが、これは事実誤認だ。90年以降、喘息死は増えるどころか減少している。喘息治療のガイドラインで、吸入ステロイドを中心とした治療が推奨されたためだ(※2)

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 厚生労働省は『喘息死ゼロ作戦』を推進している。喘息死『半減』作戦ではなく、喘息死『ゼロ』作戦である。気管支喘息は、適切に管理をしさえすれば喘息死を予防できるとされている。「ステロイドが喘息死を増やす」という根拠のない主張は、下手をすると人を殺す。

 「“ママ、苦しい、苦しい。死にそう”と喘息の子どもが訴えるものの、救急車を呼ぶとステロイドを使うことになるわけで、それだけは絶対に避けたかった」と書かれた代替医療ユーザーのブログがあった。幸いなことに、その子どもの喘息は治まったようだが、運がよかっただけである。

 ベッドから起き上がれなくなるほど悪化するまで、ステロイド治療を拒否する患者さんがいるのはなぜか。わが子が苦しんでいるのに、ステロイドを使われることになるからと救急車を呼ぶのをためらう母親がいるのはなぜか。ステロイドの副作用のみを過剰に言い立て、あるいはステロイドの害をでっち上げるような言説が、原因のひとつだと私は考える。

※1Borchers AT et al., Surviving the butterfly and the wolf: mortality trends in systemic lupus erythematosus., Autoimmun Rev. 2004 Aug; 3( 6): 423-53.
※2Suissa S and Ernst P, Use of anti-inflammatory therapy and asthma mortality in Japan., Eur Respir J. 2003 Jan; 21( 1): 101-4.

〈参考〉竹原和彦『アトピービジネス』 文春新書

早くからニセ医学への注意喚起を行ってきた内科医・名取宏氏が、危険な反医療論や代替医療、健康法について、確かな文献をもとにわかりやすく解説。本書を一通り読むと、科学的根拠があるというのはどういうことか、およびニセ医学の典型的なパターンがわかるので、騙されないための一助になります。ご自身はもちろん、家族などの大切な人の健康を守るために、広くお読みただきたい一冊です。

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名取宏(なとり ひろむ)
内科医。医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は市中病院に勤務。ツイッターやブログなどでも医療やニセ科学に関する情報を発信している。NATROMのブログ名取宏(なとろむ)@NATROM

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