人口減少というチャンスを潰す移民政策
現在は、人手不足が叫ばれており、実際に一部の業界では賃金のアップが行われ始めている。
ところが、実質賃金はほとんど上がっていない。その理由は、まだまだ高齢労働者が多いことと、短期移民が増えているためだ。短期移民とは、外国人留学生や技能実習生という名の外国人労働者だ。
とはいえ、まもなく高齢労働者は一気に減り始める。そうなれば、市場原理に従って、賃金に上昇圧力が加わるチャンスとなる。福利厚生などの雇用環境も改善されていくであろう。同時に、賃金アップや雇用環境を改善しないブラック企業は、人手不足で倒産し、淘汰される。
ところが、ここで安価な移民を入れてしまっては、そのチャンスはあっけなく潰されてしまう。
また、人手不足は、設備投資などを行うことで生産性を高めようと圧力を企業に与える。そうなれば、企業は投資や新しい技術の開発に踏み出し、経済が成長を始める。
しかし、安価な移民で賄ってしまえば、生産性向上への動機はなくなる。つまり、長期のデフレで設備投資をせず人を安く使い倒し、激しい価格競争にさらされる悪循環を断ち切るチャンスが潰されるのだ。
移民賛成派に抜けている視点
そして、経済界を中心とする移民受け入れ賛成派が完全に忘れてしまっているのが、外国人が人間であることだ。賛成派は外国人を「労働力」としか見ていない。
だから、簡単に労働力の不足分を補えばいいと考えている。しかし、移民は機械や道具ではない。いったん受け入れたら、仕事がなくなって不要になったからといって簡単に追い返すことはできないのだ。
法務省の発表によれば、2013年からの5年間で延べ2万6000人の外国人実習生が失踪しており、その数は年々増加の一途を辿る。失踪の主な原因は「低賃金」である。また、不法残留者数は、6万6498人に上り、こちらも前年同期比1.9%で、増加が留まる気配はない。
外国人労働者の受け入れにあたって、経済的にも、社会的にも、人道的にも課題は山積だ。受け皿の法整備もできていないまま、拙速な移民受け入れ拡大策が社会にどんな影響をもたらすのか? 移民問題で揺れる欧州を見るまでもなく、わかりそうなものだが……。