母から虐待されてなお、自分の息子にもビンタが止まらなかった元・保育士が語る“虐待根絶のカギ”

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わが子に虐待しないために、コンプレックスを消化しておこう

 初めて会ったあの日、リカコさんはバッグの中から手帳を取り出し、そこに挟んでいた一枚の新聞の切り抜きを取り出し、テーブルに広げた。

「これをなんとかしたいんですよ」

 2011年1月13日付けの朝日新聞で、国内の虐待件数が過去最高になったという記事だった。残念なことに現在もその数は増え続けているが、更新されたその数字を見るたび、虐待サバイバーとしても後輩の不幸を見るようで、暗たんたる気持ちになる。

「子どもたちを助けるのも必要だけど、それだけじゃ変わらないじゃないですか。わたしは、親のほうをサポートしていきたいんです」

 リカコさんは力強くそう言い切った。被害者を助けるだけの「対処療法」から抜け出し、その原因を絶つためには、親への働きかけが必須ということだろう。数々のサバイバーさんの話を聞いていると、虐待をしてしまうオトナは、本人も気づかないほど深い部分で不安や怒りを抱えていたり、自己肯定感が低いのではないかと感じることがよくあるからだ。

その頃のリカコさんのブログには、こんな内容が書かれている。

私の大きな夢は、どんな虐待もなくしていきたい!
そのためには、「自分が大好き!」な人を
増やしていくことが大切だと思うのです。

虐待には、コンプレックスが投影されていることも多いです。
コンプレックスを消化しておくことで、自分自身が強くなります。
自分が精神的に強くなれば、虐待は確実に減ります。
私は、コーチングという形で、
自分だけの強みを確認していくお手伝いをしています(^^)
コンプレックスって、誰かと一緒に消化していくこともできるんですよ。
ぜひ、体験してみてください♪

リカコさんには、「行動が遅い、勉強ができない人間は不完全」「親としての準備ができていなかった」というコンプレックスがあった。「“できない子”が大切にされてもいい」「不完全な親でもいい」と認められていれば、わが子に怒りをぶつけずにすんだのかもしれない。

 あれから7年がたった今も、虐待をなくしたいという彼女の願いは変わらない。リカコさんは、メンタルトレーナーとしての立場からもこう語る。

「『等身大の自分を受け入れられない』という認知の歪みを直してから子どもを持てば、虐待の世代間連鎖も断ち切れるのではと思っています。外出先などでたまたま目にした親子の関係を見ていると、虐待の可能性がある親子ってわかるんですよね。誰でも虐待しちゃう可能性ってあるので、根本的な原因に取り組んでいきたいです。イライラした時にその場を離れるとか、気分転換するなどの『小手先の対応』じゃなくてね」

 リカコさんがクライアントに虐待の経験を語ることはない。しかし、日々彼女が「迷える人」にかけ続ける言葉の裏には、不幸な親子を少しでも減らしたいという思いがにじんでいる。

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