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退職代行サービスは、ブラック企業で働く人の救世主となるか

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Thinkstock/Photo by takasuu

 昨今、「退職代行サービス」が注目されている。検索してみると、実に多くの業者がヒットする。その一部を挙げると、「EXIT」、「SARABA」、「退職代行リスタッフ」、「辞めるんです」、「ニコイチ」、「退職代行コンシェルジュ」、「RETIRE」、「メンター」、「Change Life」などなど。

 「退職代行サービス」とは、簡単に言えば、「会社を辞めたいのに辞めると言い出せない」人の代わりに、会社に辞める意思を伝えてくれるサービスだ。

 「会社を辞めるのに、業者の手を借りるなど情けない」という意見もあるが、実は会社を辞めることがとても難しい状況に追い込まれている人は多い。

 実際、辞めるに辞められずに精神的・肉体的なダメージを受ける人も多く、中には自殺に追い込まれる人までいることはニュースでも報道されているのでご存じだろう。

 そこで今回は、退職代行サービスの内容と、なぜこのようなサービスが注目されるようになったのかを考えたい。実はこのサービスが、ブラック企業を駆逐する救世主になるかもしれないのだ。

退職代行サービスはどんなことをしてくれるのか?

 まず、退職代行サービスの流れを見ておきたい。何らかの理由で会社に退職の意思を伝えられない人が、退職代行サービスにLINEや電話などでサービスの申し込みをする。

 すると、サービス会社(以下、業者)から簡単なヒアリングが行われる。すなわち、退職したい理由やすでに交渉したのかどうかなどだ。次にサービスの申込者が料金を支払う。続いて業者から、本人がしなければならないことが説明される。それは、退職届の郵送や制服の返却などだ。

 その後、業者は会社に電話し、利用者の退職の意思と理由を伝える。そしてあっけなく退職が受理される。

 この一連のやりとりは、早ければその日のうちに完結してしまうという。そのため、これまで悶々と退職できずに悩んでいた利用者は、「会社ってこんなに簡単に辞められるのか……」とあっけにとられてしまうことになる。と同時に、憑き物が落ちたように気持ちが楽になるらしい。

 ただ、退職代行サービスは基本的に退職の意思や理由を代理で伝えるだけであり、仲裁や和解の交渉、残業代の支払いや有給休暇の買い取りの交渉などはできない。これらの交渉ごとを、報酬を受け取って行えるのは弁護士だけだからだ。

 ただし、退職代行サービスの業者のほとんどには、顧問弁護士がついており、活動のチェックを行っているので、いざという時は安心できるようだ。

 退職代行サービスの料金はどの業者も似たり寄ったりで、3万円~5万円ほどとなる。利用者が正社員か非正規社員かの違いによっても価格は異なるようだ。この金額を「高いな」と感じる人は、おそらく自分で「辞めます」と言える人だろう。言えずに苦しんでいる人にとっては、この料金を支払ってでも退職できることの価値は大きいのではないだろうか。

本当に辞められるのか?

 退職代行サービスを利用した場合、ほぼ問題なく会社を辞められるようだ。もし辞められなかった場合には返金されるサービスもある。

 というのも、企業は被雇用者から退職の意思を示されたら認めなければならないと法律で定められているからだ。民法第627条には以下のように記されている。

 “当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。”

 「申し入れの日」は、直接退職届を提出した場合、だけでなく、郵送でもメールでも、使用者側に退職の意思が届いた日を指す。そこから2週間経過すれば雇用契約は終了になるということだ。

 つまり、会社を辞めるに当たっては、使用者側の合意はそもそも必要ない。

 そのため、「会社が退職を認めなかったら困る」という不安を持つ人も多いようだが、2週間前に退職の意思を示し、後は有給休暇か欠勤扱いで休めば、もはや出社する必要もない。

 したがって、会社側から「辞めたら法的措置をとるぞ」と脅されても、退職代行サービスが退職の意思を伝えると、ほぼ即日で退職手続きが行われるケースが多い。

 これには会社側の事情がある。つまり、2週間も欠勤されてその間の社会保険料を負担するくらいなら、すぐに辞めてもらったほうが良いと判断するためだ。

お金を払ってまで代行してほしい理由とは?

 それでも「数万円を払ってまで退職代行サービスを利用するのはもったいない。それほど払うくらいなら自分で言う」と考える人も多いだろう。

 実際、私は会社員時代に何度か転職しているが、遠慮せずに自分で退職の意向を上司に口頭で伝えながら、退職届も直接手渡してきた。同じようにできる人は、「辞めたいのに辞められない」という問題を乗り越えることができるのだから、「もったいない」と感じて当然だ。

 問題は、これを乗り越えられない人たちなのだ。 

 退職代行サービス業者の元に届く声は悲痛だ。「もう死にたい」「精神的に苦しくて仕方がない」「会社に行きたくない、助けてください」といった心情が伝えられるそうだ。

 こうした状況は、シフトが厳しすぎて休みが取れずプライベートな時間もない、冷静な判断力も奪われ、生きている意味を見失うほどの労働環境の悪さが原因になっている場合が多いようだ。

 さらに、退職の意思を伝えたところ、「ここが勤まらないようなやつは、どこに行っても使い物にならないぞ」、「お前の仕事を誰かが負担しなければならないことがわかっているのか、人として無責任だぞ」などの罵声が返ってくる職場はある。酷い場合だと「お前を育てるのに会社がどれだけの金をかけたのか、わかっているのか? 辞めたら損害賠償してもらうからな」などという脅しもあるそうだ。

 これらは、ブラック企業もしくはそれに近い企業の常套句である。辞められない本人も、「会社に申し訳ない」とか、「上司に仕返しをされるのか怖い」といった罪悪感や恐怖感にとらわれていることがある。これらはいずれも本人にしてみれば切実な悩みだ。

 また、高圧的ではないにしろ、「後任者が見つかるまで待ってくれないか」と言われたり、「引き継ぐのに3カ月はかかるはずだから、それまでは辞められては困る」など、ずるずると引き延ばし続けられることもある。

 しかし、後任者を見つけられないことも、引き継ぎのマニュアルが整備されていないのも、会社側の怠慢である。

 そしてもう1つ、上司が辞めさせたがらない理由として、部下に辞められたら自分の評価が下がることや、穴埋めの責任を自分が負わねばならないということもある。これらの事情から、「辞めたいのに辞められない」状況が生まれてしまうのだ。

会社を辞めることに罪悪感をもつ必要はない

 このように考えると、退職代行サービスを利用する人たちが、一概に「情けない」人だとは言えない。そのまじめさや思いやりの深さを、ブラック化した企業にいいように利用されているとも考えられるためだ。

 彼らはこうして、日々強いストレスを受けながら勤務し続けている。これを放置しておくと、精神疾患にかかったり、肉体的な健康も損なってしまったりする可能性がある。最悪の場合、自殺に追いやられてしまう可能性すらある。

 したがって、こうした状況にある人は、一刻も早く会社から逃げ出さなければならない。そのためなら、3万~5万円のお金を払うことで会社と別れさせてくれるサービスを使ったほうがいいだろう。少なくとも、そのようなサービスがあることを知るだけでも救いになるのではないか。

 一方で、企業にとっては、拒否できない退職の意思を代行して伝えてくるサービスがあることは脅威だ。特に、辞められない社員を安くこき使ってやろう、と考えているブラック企業はやりにくくなるだろう。

 「うちはブラックではないのだから、退職くらい自分できちんと言えないのか?」などと批判する上司もいるだろう。しかし、そのような管理職は、今一度考えてみるべきだ。退職の意思を本人が言えないようにしている原因を、自分たちが作っている可能性はないのだろうか? ということを。

 最初は「奇妙な代行業があるものだ」と思って調べ始めた退職代行サービスだが、その需要が増えている背景に思いを巡らせると、実は企業に対して労働環境を改善させる圧力になる存在ではないかと思えてきた。

 そこまで大袈裟に考えなくとも、辞めるに辞められずに追い詰められている人たちが救われる機会が増えることは歓迎したい。

地蔵重樹

フリーライター。主に起業家が著者となる本のブックライティングやWebライティングを行う。経済、ビジネス、宗教、歴史、AIに興味あり。しげぞうのペンネームで『駅猫Diary』他の著書も有り。

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