ディズニーに乗っ取られたシンデレラ~民話の変貌をたどる

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シンデレラの仲間たち

 文献に残っているヨーロッパのシンデレラ物語として有名なのは上にあげた3作ですが、他にもシンデレラに似たお話はたくさん各地に残っています。

 民話を研究する際には、共通の要素に着目して類型で分類するやり方がとられており、アールネ・トンプソンのタイプ・インデックスという分類方法がよく使われています。この分類法では、シンデレラは大分類「魔法の話」の下の「超自然的な援助者」というサブカテゴリに入っており、「迫害されたヒロイン」という見出しのもとに510Aという分類番号が与えられています。この510Aにあたるお話は日本の「糠福米福」とか、いろいろあります。

 510は虐待された娘が魔法などの助けで成功するまでを描く話です。サブカテゴリの510Bは「不自然な愛」という分類で、父親から要求される過大な愛情に応えられず、身をやつして家から出て行った娘が、不思議な力に助けられ、幸せな結婚をするというような物語が入っています。父親が3人の娘の愛情を試そうとした結果、賢い末娘を追放してしまうイギリスの「いぐさずきん」とか、父親から結婚を申し込まれた娘がロバの皮をかぶって逃げるフランスの「ロバの皮」などがこの分類に入ります。

 この系統の話は近親相姦などの要素があってちょっとえぐいのでシンデレラほど人気がないかもしれませんが、いくつか有名な翻案があり、『ロバの皮』は1970年にジャック・ドゥミ監督、カトリーヌ・ドヌーヴ主演で『ロバと王女』として映画化されています。また、シェイクスピアの『リア王』の冒頭部分はこの「いぐさずきん」系の民話から影響を受けたもので、実は『リア王』とシンデレラはお話の分類では遠い親戚にあたります。ディズニーの『シンデレラ』を見慣れていると、『ロバの皮』や『リア王』とシンデレラに似たところがあるなどというのはほとんど気付かないのですが、よく考えると実は親戚なのです。

牙を抜かれたシンデレラ

 こういうわけで、ディズニーの『シンデレラ』以前には、世界各地にいろいろなシンデレラのお話があり、グロテスクなものから教訓的なものまで、多様なお話が流通していました。しかしながら、ディズニー映画にはこうした豊かな民話の痕跡がありません。20世紀半ばのアメリカでは家庭的な女性が理想化されるきらいがありましたが、それにあわせてヒロインであるシンデレラは継母を殺したり、虐待に復讐したりするようなことは全く考えもしない、優しい娘になったのです。作中で歌われる「夢はひそかに」という歌でシンデレラは静かに夢を見て王子様を待っているだけです。母から娘への遺産の継承という女性間のつながりも薄められています。ディズニープリンセスの主力としてディズニーがシンデレラに関するさまざまな商品を売っています。世界中の女性がそんなシンデレラに憧れたり、反発したりするようになりました。シンデレラはディズニーの商品に成り下がってしまったのです。

 ディズニー以降にもっと斬新なシンデレラ像を提示しようとした試みもあります。代表例が1998年の映画『エバー・アフター』です。これはとある貴婦人がシンデレラの別バージョンをグリム兄弟に教えるという枠の作品です。そのお話というのは、16世紀のフランスを舞台に、たくましく聡明であるものの継母にいじめられているダニエル(ドリュー・バリモア)が、さまざまな困難を自力で乗り越えながら王子と結ばれるという内容になっています。ダニエルは性暴力にあいそうになってもめげずに自分で戦う強いヒロインで、王子との恋は階級社会への挑戦として描かれています。レオナルド・ダ・ヴィンチがダニエルに協力してくれるなど、時代設定を生かしたひねりもたくさんあります。

 シンデレラは豊かな民話の伝統に支えられた物語であり、いくらでも再解釈できる可能性を秘めていると思います。『五日物語――3つの王国と3人の女』や、2012年にスペインで作られたモノクロ・サイレントの白雪姫映画である『ブランカニエベス』など、民話をもとにした斬新な映画が作られるようになっている中、シンデレラもそろそろディズニーの影響から脱した解釈や探求の対象になってもよいのではないでしょうか。ディズニーに騙されてシンデレラを毛嫌いしてしまったり、ロマンティックなだけのお話だと思ったりせずに、是非民話の世界に踏み込んでみてほしいと思います。

参考文献

ペギー・オレンスタイン『プリンセス願望には危険がいっぱい』日向やよい訳、東洋経済新報社、2012。
北村紗衣「「シンデレラストーリー」としての『じゃじゃ馬ならし』――アメリカ映画『恋のからさわぎ』におけるシェイクスピアの読みかえ」『New Perspective』45 (2015):35–49。
グリム兄弟『グリム童話集』全5巻、金田鬼一訳、岩波文庫、2009。
河野一郎編訳『イギリス民話集』岩波文庫、1991。
段成式『酉陽雑俎』全5巻、今村与志雄訳注、平凡社、1980–1981。
アラン・ダンダス編『シンデレラ――9世紀の中国から現代のディズニーまで』池上嘉彦他役、紀伊國屋書店、1991年。
野口芳子「「シンデレラ」の固定観念を覆す――ジェンダー学的観点からのグリム童話解釈」『武庫川女子大学紀要人文・社会科学編』58(2010):1–11。
ジャンバッティスタ・バジーレ『ペンタメローネ――五日物語』杉山洋子、三宅忠明訳、大修館書店、1995。
シャルル・ペロー『完訳ペロー童話集』新倉朗子訳、岩波書店、1982。
浜本隆志『シンデレラの謎――なぜ時代を超えて世界中に拡がったのか』河出書房新社、2017年。
Marian Roalfe Cox, Cinderella: Three Hundred and Forty-five Variants of Cinderella, Catskin, and Cap o’Rushes, Abstracted and Tabulated, with a Discussion of Mediaeval Analogues, and Notes, The Folk-lore Society , 1893.
Anna Birgitta Rooth, The Cinderella Cycle, Arno Press, 1980.
William Shakespeare, King Lear, Arden Shakespeare 3rd Series, ed. R. A. Foakes, Bloomsbury Arden, 1997.

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