政治・社会

移民家族を引き裂く国家は許されるのか? 日本の入管法改正案と、アメリカの難民キャラバン

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写真:ロイター/アフロ

 11月末の数日間、アメリカ合衆国とメキシコの国境付近は大雨が続いた。メキシコ側のティワナにテント村を作って寝泊まりしていた7,000人近い移民キャラバンの参加者たちは水浸しとなった地面、冷たく湿った毛布に耐えて留まるしかなかった。アメリカ側に渡るための待機であり、他に行く場所はなく、乳幼児を抱える親、妊婦、障害者、病人やケガ人はことさらに苦しい時を過ごしていた。

 11月30日になるとメキシコ政府がシェルターを用意し、移民キャラバンの数百人はバスによってシェルターに移動した。しかし多くの人はシェルターに入り切れず、なかには政府を信用できず、あえてテントに残る人々もいた。

 彼らはホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドル、ニカラグアなど中米諸国からアメリカを目指してやってきたキャラバン隊だ。10月半ばにホンジュラスを出発し、4,500キロ近い距離を主に徒歩で、時にはヒッチハイクをし、11月後半にようやく国境にたどり着いたのだった。道程では酷暑が続き、水や食料が不足して体調を崩す者が続出するなど非常に厳しい旅となった。ところがティワナに到着するや、大雨で凍えることになってしまったのだった。

アメリカに「亡命」したい

 キャラバン隊に参加した人々は母国で貧困に喘ぎ、または蔓延する壮絶なギャング暴力に耐え切れず、国を脱出したのだった。ある男性は国では仕事がないと言い、ある女性は長子をギャングに殺され、次子はやはりギャングからの暴行によって障害者となり、這々の体で末子だけを連れてキャラバンに参加したと語った。

 彼らの多くはアメリカに「亡命」申請をするつもりだった。アメリカは、たとえ不法入国した者であっても亡命/難民申請を受け付けると法で定められている。申請後の審査は数カ月かかり、少なくともその間、申請者はアメリカに留まれる。全員が審査を通るわけではもちろんないが、毎年およそ7万人の申請を米国は受け付けている。

 ところが大統領のトランプはキャラバン隊が国境に近づくにつれ、キャラバン隊を阻止すると訴え出した。国境に最大15,000人の兵士を配備してキャラバン隊の入国を防ぎ、かつ不法入国者の亡命/難民申請の受け付けを中止するとした。

 トランプはキャラバン隊をアメリカに入国させず、難民申請者はメキシコに留まり、申請まで2~3カ月待たなければならないとも発表した。これに対してメキシコの新大統領アンドレス-マヌエル・ロペス-オブラドールは「そんなことは引き受けていない」と反論。他国からやってきてアメリカ行きを希望する7,000人もの衣食住や医療を引き受けるのは大変な負担になるからだ。「メキシコ国境の壁」に続き、トランプが一方的に「メキシコに払わせる」と言い、メキシコに無視された格好だ。それでもメキシコ史上もっとも左派と呼ばれるロペス-オブラドール大統領は、大雨にたたられた人々にシェルターを用意した。また、アメリカ入国を諦め、代わりにメキシコに留まることを希望した約2,700人に暫定ビザを発行している。

 トランプは11月25日にティワナと米国サンディエゴの国境を一時的に封鎖した。キャラバン隊の約500人が国境フェンスによじ登るなどしたためだ。メキシコ側に駐屯していた米国国境警備隊は人々に向けて催涙弾を発射した。オムツだけを着けた幼児2人を連れて逃げ惑う母親の写真が撮影され、世界中に出回った。

 日本ではおそらく細切れにしか報じられていない今回のキャラバン事件を通して、日米の移民問題を考えてみたい。日米は移民にまつわる歴史、社会背景、地理条件がまったく異なるため、簡単な比較はできない。しかし日本も今、外国人労働者+入管法改正が大きな問題となっており、アメリカの事象から学ぶべきことは大いにあるように思える。

移民大国の歴史

 アメリカは入植者と呼ばれた初期の移民と、アフリカから強制連行された黒人奴隷、その後に爆発的に増えた移民によって構成された国だ。本来の住人であるネイティヴ・アメリカンは入植者と移民によって大量に殺害され、生存者は現在も居留区に押し込められ、貧困にあえいでいる。また人口も非常に少なくなっている。

 ネイティヴ・アメリカンへのあるまじき行為はここでは敢えて置くが、現在のアメリカは移民なくして有り得ないことになる。同時に奴隷の250年間にわたる無償労働がアメリカを経済大国に押し上げたのである。自らの意思で新天地にやってきた移民と誘拐・強制連行された奴隷には大きな違いがあるが、いずれも他国から移動してきた(させられた)人々だったという点では同じだ。

 こうした歴史の上に成り立つアメリカが「今はもう自分たちだけで充足しているから移民はいらない」では倫理的に済まない。言い換えれば、アメリカは世界各国に「借りがある」と言える。

 移民排斥を進めている大統領のトランプにしても、母親はスコットランドからの移民、父方の祖父もドイツからの移民だ。最初の妻(イヴァンカの母親)はチェコスロバキアから、3人目の妻にしてファーストレディのメラニアはスロベニアからの移民。イヴァンカの夫でトランプがホワイトハウス上級補佐官に任命したジャレッド・クシュナーも、祖父母はホロコーストを逃れてベラルーシからアメリカにやってきたユダヤ系の移民だ。

 トランプは移民の「親族呼び寄せビザ」を「芋づる式移民」と呼んで廃止したがっているが、メラニアの両親もメラニアの親族呼び寄せ枠でアメリカに移住している。また、メラニアはモデルとして渡米した初期、不法就労者だった疑いが持たれている。その良し悪しはともかく、そうした移民がファーストレディになれるのが、アメリカという国なのである。

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堂本かおる

ニューヨーク在住のフリーランスライター。米国およびNYのブラックカルチャー、マイノリティ文化、移民、教育、犯罪など社会事情専門。

サイト:http://www.nybct.com/

ブログ:ハーレム・ジャーナル

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