社会

移民家族を引き裂く国家は許されるのか? 日本の入管法改正案と、アメリカの難民キャラバン

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経済大国としての義務

 大国は他国を支援する義務がある。世界は国が最大単位となっており、基本的に国内のことは国内で処理をする。しかし国力に極端な差があり、かつ戦争や内紛、大規模天災、極度の貧困や飢餓など、その国の政府では国民を保護し切れない状態に陥ることがままある。すると他国が国境を超えて手を差し伸べる。助け合いの精神は小国側にもあり、日本も大規模災害に見舞われるたびに、経済的には日本に劣る国からも支援の申し込みを受けている。

 アメリカは経済大国であると同時に移民の歴史と伝統があることから、過去から現在にいたるまで多くの国から、あらゆる理由による避難民を受け入れてきた。

 例えば、戦時よりホロコーストを含むユダヤ人差別を逃れてやってきたユダヤ系を14万人受け入れてきた。今ではアメリカの金融やメディアの中核を成す人々である。

 11月の中間選挙で米国初のムスリム下院議員が2人誕生したことは記憶に新しい(※)。そのうちのひとり、イルハン・オマールはソマリアで生まれ、1990年に14歳で家族とともに米国ミネソタ州に渡っている。ソマリアでは1991年に内紛が起こり、以後、多くのソマリア人が難民として渡米し、ミネソタ州に落ち着いた。現在、ミネソタ州には4~5万人のソマリア人/ソマリア系アメリカ人がコミュニティを築いて暮らしている。

(※)米国中間選挙で下院に101人の女性議員~票の数え直しと再投票

 アメリカにはTPS(Temporary Protected Status 暫定保護資格)と呼ばれるビザがある。戦争や災害などで大きな被害を受けた国からの避難民を期間限定で受け入れる仕組みだ。現在、ハイチ、エルサルバドル、シリア、ホンジュラスなど計10カ国からの32万人を受け入れている。

 ハイチは2010年の大地震により46,000人がTPSを取得してアメリカに暮らしている。今年5月、トランプ政権はハイチのTPSを6カ月延長するが「帰国を考え始めなさい」と発表した。ハイチ政府は貧困国ゆえに大地震後の復旧が遅れに遅れ、さらにその後もハリケーン被災しているために18カ月の延長を米国政府に求めたが、聞き入れられていない。ちなみにトランプはハイチを「シットホール(クソ壷)の国」と呼んでいる(※)。

(※)トランプ「ハイチとアフリカは便所」発言〜「小学4年生」レベルの人種差別主義者

「決まりは決まり」では済まない移民事情法

 アメリカに移住を希望する人の数は膨大だ。すべてを受け入れることはアメリカにもできない。そこで移民法をもうけ、移住者の条件を定め、審査をおこない、条件に沿わない者は申請を却下される。当然である。

 そこから「決まりは決まり」であり、なにがあってもビザなし移民(不法滞在者)は許さないとする声が、とくに保守派、共和党にある。だが、現実をみる必要がある。現在、アメリカには推定1,100万人ものビザなし移民が存在し、トランプが進めるビザなし移民一掃(全員、強制送還)は現実問題として不可能なのである。

 そもそも彼らビザなし移民は、アメリカ人がもう就かなくなった、いわゆる3K仕事を担っている。仮に全員追い出せば、明日から誰が農場でトマトを摘み、食肉工場で牛を捌き、レストランで皿洗いをするのだろうか。ビザなし移民が就いているそうした仕事に無職のアメリカ人をあてがえというのも単純過ぎる思考だ。各州のインナーシティ(都市部の貧困地区)に住む無職のアメリカ人が、生まれ育った地域から何十キロ、何百キロも離れた田舎の農場に移り、全く異なる環境のなかでレタスやイチゴを摘む生活を送るとは到底思えない。仮に法的な強制策をとれば、それは奴隷労働であり、現在の米国社会は許容しない。

 ビザなし移民が増えすぎてどうにもならない現象は1980年代にも起きており、共和党レーガン政権が「恩赦」として永住権を発行した歴史もある。その時に永住権を得た者はのちに市民権を取得してアメリカ人となり、アメリカで生まれた二世の子供たちも今や成人してアメリカを支える人々となっている。

 恩赦を繰り返すと「恩赦目当てで新たなビザなし移民がやってくる」という反論もある。もっともな論だ。こっそり入国し、「次の恩赦までの数年、または数十年を耐え忍べば永住権か市民権が得られる」と考える者は出てくるだろう。だが、先に書いたように自国には居られない人々が世界に無数にいる。アメリカには彼らの親族や知人がすでに移住しており、または同国人によるコミュニティがある。恩赦の有無にかかわらず、無理をしてでもアメリカに来る者があとを絶たない土壌がアメリカにはあるのだ。地続きのメキシコ経由、命がけだがボートで海を渡れるカリブ海経由だけでなく、飛行機に乗らねば来れない国々からも、なんとか短期ビザを取得し、ビザの期限が切れたのちも居座る覚悟の者たちがやって来る。

 アメリカの移民法が「ブロークン(壊れている)」であることは誰もが認めるところだ。なぜ、どこが「壊れている」かを考えなければ、修復できない。アメリカにとって欠かせない労働力となってしまった1,100万人ものビザなし移民を全員送還するなど実現不可能な建前論を前提にしていては、機能する移民法は作れない。アメリカ自身にコントロールできない部分があることを認めたうえで、実際に機能し得る移民法を作らねばならない。

移民は必ず家族を作る

 オバマ前大統領はビザなし移民のうち、子供の頃に自分の意思ではなく連れて来られた若者(ドリーマー)だけでもアメリカに留まらせようとDACAと呼ばれる法律を制定した。親子の離散を防ぐためにドリーマーの親たちもアメリカに留める法を作ろうとしたが、これは成し得なかった。

 ビザなし移民も人間である。人間は環境にかかわらず、家族を持つ。ドリーマーの中にもすでに子を持つ若者がいる。先に書いたハイチなどが対象のTPSは期間限定の滞米資格だが、期間の長短は関係なく、人は土地に根付いていく。ゆえに現在、米国のハイチ人コミュニティは大変な危機感を抱いている。先日、米国のハイチ人たちがカナダへの亡命を求めているという報道があった。すでにアメリカ市民権を得ているハイチ系アメリカ人、アメリカ生まれの二世たちもおり、TPSが解除されると家族生き別れになってしまうのだ。彼らは家族との生活のために、生まれ育った国であるアメリカを後にしようとしているのである。ただし、これはカナダがこうした亡命者を受け入れる可能性があり、かつハイチとカナダにはフランス系文化の共通項があるためだ。

 日本の外国人就労者も同じだ。どんな法律や条件を課しても、彼らは必ず日本を生活の基盤とし、家庭を築き、子を産む。日本の場合は日本生まれの子も日本国籍は取得できないが、文化的には日本で生まれ育つ日本人となる。すでにそうした人々は存在している。こうした家族を国家が法の名の下に無理やりに引き裂いたり、強制送還させるのは、それこそが犯罪行為と言える。

 トランプは今年1月にビザなし移民の親子引き離しをおこなった。親はメキシコとの国境州であるテキサス州、アリゾナ州の収容所に収容され、子供は乳児・幼児までもが親と引き離され、何千キロも離れたニューヨークの施設にも連れて来られた。施設収容所職員が「子供にシャワーを浴びさせるから」と言って子供を連れ去り、以後、二度と子供の顔を見ることはなかったと親たちは語っている。あまりの非人道さに判事が親子の再会命令を出すこととなった。ところがトランプ政権は親子の正確な記録を取っておらず、再会は手間取った。

 強制離散から2~3カ月後の空港での親子再会の瞬間がいくつかメディアによって報じられた。幼児の中には親に対してまったくの無表情であったり、抱きしめようとする親を避け、ハイハイして逃げるケースまであった。そんな我が子を見て、母親たちはとめどもなく涙を流し、嗚咽した。幼い時期の親との強制離散は深い精神的ダメージを残してしまうのである。それでも再会できた親子はまだ恵まれていたとすら言える。親だけが母国に強制送還されて居どころが分からず、今も再会できずにいる子供たちがいるのだ。トランプは、アメリカは、この犯罪行為をどうつぐなうつもりなのか。

国益と人権の衝突

 黒人奴隷制度は、当時は法律にかなっていた。米国社会はそれを正しい制度と受け取っていた。ゆえに反意を唱えて行動した者たちは罰され、殺された。やがて奴隷制度は法律違反となった。今となっては奴隷制度を正しいと考える者はまずいない。社会の善悪の概念は変化し、それに伴い、法律も変えられる。だが、人の命や人生がかかっている場合、「今はそれが合法だから」で見過ごしてはならない。法律違反となることを承知で反対運動を起こした者がいたからこそ、奴隷制度廃止後も合法だった黒人差別は(少なくとも法律上は)禁じられ、女性の投票権、同性愛者の存在などは認められることとなった。

 日本は奴隷制度という名称でこそないものの、 「技能実習制度」を過去25年間続けている。これが実質的にはヒューマン・トラフィッキング(人身売買)であり、奴隷制度であることは米国政府の報告書(※)が報じている。また、フィリピンを始めとする世界各国からのセックスワーカーもヒューマン・トラフィッキング問題として国連によって警告されている。二者のうち、とくに技能実習制度は政府による国策であり、制度の詳細や名称が変わるだけで、国家すら奴隷制度をそうとは認識できず、施行してしまう例だと言えるだろう。

(※)「2017年ヒューマン・トラフィッキング報告書」

 米国も日本も自国の利益を第一に追求する権利がある。国境に押し寄せる7,000人もの難民を脅威に感じる米国人も少なくない。しかし経済大国、先進国には他国を支援する義務もある。今回のキャラバンはいきなり起こったのではなく、トランプの大統領立候補宣言から現在に続く数々の移民排斥の言動が背後にある。米国大統領が他国支援どころか、正当な理由もなく、他国と他国人を「強姦魔」「麻薬密売人」「犯罪者」「クソ壺」などと罵倒し、思いつきのような移民シャットダウン策を続けたがゆえだ。

 加えて、政治や法の枠を超えて、国とはそもそもは個々の人間の集まりであることを忘れてはならない。人として、他者を奴隷として使い捨てること、幼い子供を親から引き離し、取り返しのつかない精神的ダメージを与えることを許容してはならない。国の利益を守りつつ、他者を保護するのは至難の技だ。アメリカの複雑にして膨大な移民法をどう改正すればいいのか、自身が一介の移民である筆者には提案のしようもない。日本の人口減少、それに伴う労働力不足問題にしても同様で、日本の誰も決定的な解決策を編み出せないでいる。しかし、人として超えてはならない一線は常にあり、国民にその一線を越えさせる法律を、国は作ってはならないのである。
(堂本かおる)

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