年金が破たんしないと困る人々
年金にもいろいろな種類がありますが、普通、ただ「年金」と言えば公的年金を指します。ところがどうもこの公的年金、あまり評判が良いとは言えません。多くの人が年金に対して不安を抱いていますし、マスコミや金融機関も年金不安を声高に叫びます。
実は年金不安は最近急に言い出された話ではなく、何十年も前から言われていたことです。金融機関がいつの時代も年金不安を煽るのは当然です。“年金は破たんする”と訴えることで、彼らは自社の保険や投資信託を販売しているのですから、破たんしないと困るのです。実際、私も証券会社で営業マンをやっていた30年ぐらい前には、大いに年金不安を煽って、金融商品を販売していました(笑)。
ところが十数年前から企業年金の仕事をするようになり、ついでに公的年金のことも調べてみると、意外にも、公的年金はそれほど頼りないものでも、破たん寸前などという状態でもないことがはっきりとわかってきました。どうして実態を正確に伝えないのでしょうか。私は、政府も厚労省も正しい事実を知ってもらう努力が明らかに不足していると思います。
そこで、公的年金にまつわる誤解をごくシンプルに解説してみましょう。
公的年金は赤字というわけではない
よく「公的年金は赤字だ!」と言われます。でも、年金財政は赤字というわけではありません。赤字なのは国の一般会計です。赤字だからこそ毎年国債を発行して支出の穴埋めをし、その借金の合計が1000兆円以上もあるのです。ところが公的年金の場合はどうかと言えば、借金どころか貯金が185兆円あまりあります(平成28年度公的年金財政状況報告:厚生労働省より)。これが年金特別会計と言われるものです。
ご存知のように日本の年金制度は「賦課方式」と呼ばれる単年度決済で、毎年入ってくる年金保険料で年金を支払うしくみになっています。ところが昔と違って今は少子高齢化が進んできたために、年金自体の毎年の“入”と“出”で言えば、“出”のほうが多くなる傾向にあります。毎年の収支として見れば、これは確かに赤字です。でも今までの貯金がありますから、赤字といっても国の一般会計と違ってすぐに借金する必要はなく、貯金を下ろしていけばいいのです。現実に毎年この貯金の中から5~6兆円ぐらいが補てんされています。
もちろん何もせずにただ貯金を取り崩していくだけなら、いずれ蓄えが無くなってしまいます。そこで、この貯金が減らないようにするために年金の積立金を運用して増やしています。ところがこの年金の運用にもどうやら誤解があるようです。
1 2