政治・社会

ハーレムに黒人サンタが存在する理由~黒人が白人キャラクターになるのはOK?

【この記事のキーワード】

黒塗りの逆パターン?

 ギリシャ/トルコ系であり、初期には浅黒い肌に描かれていた聖ニコラスは、いつのまにか北極に住む、雪のように真っ白なおじいさんへと変化したのだった。

 ここでアメリカ黒人とブラック・サンタについて考えてみる。アメリカ黒人の多くは、遠い昔にアフリカから奴隷として連れてこられた人々の子孫だ。400年前まで遡ればルーツはアフリカにあるとは言え、アメリカで生まれ、アメリカ文化の中で育ったアメリカ人だ。生まれた時にはサンタクロースの寓話があり、幼い頃はサンタクロースを装った親からクリスマス・プレゼントをもらい、親となった者は自分の子供に同じことをおこなっている。

 黒人の子供たちもサンタクロースを待ち焦がれ、プレゼントをリクエストする手紙を書き、クリスマスを指折り数える。その間、絵本やアニメや街のディスプレイやCMで白人のサンタ像を見続けることになる。子供たちは見慣れた白人のサンタに違和感は持たない。物心がついて以来、目にするサンタクロースの圧倒的多数が白人だからだ。しかし、子供が待ちわびているサンタクロースが白人であることに親は抵抗を感じる。人生のあらゆる局面で黒人としての存在、黒人としての外観を揶揄される黒人たちは、子供に夢を「与える」サンタクロースが白人ではなく、子自身や自分と同じ外観であったなら、と願う。

 白人が黒塗りして黒人に仮装するとレイシストと呼ばれるのに、黒人が白人キャラクターになるのはいいのか? と疑問に思うかもしれない。文化の盗用と黒塗りについて書いた以下の記事にも記したように「マジョリティとマイノリティで作用の仕方が異なる」のである。人種問題は「人種Aがしてダメなことは人種Bもやってはいけない」と一律に捉えると理解が進まない。これは「不公平」なのではなく、人種民族によって差別・被差別の歴史が異なる以上、現在のような人種差別問題の「調整期間」のあり方も人種民族によって変わってくるということなのだ。

[wezzy_blogcard 42253]

 しかし、5年ほど前、ジャーナリストのミーガン・ケリー(後にトランプに「生理で気が立っている」と侮辱されたことで有名になった)は自身の番組で「キリストとサンタは白人だ」「(黒人でないことを)子供も知っておくべきだ」と発言し、物議をかもした。キリストは生誕地を考えれば中東人のはずで、ジャーナリストとしての不見識に驚かされたが、白人クリスチャンの多くは同様に考えている。それよりもサンタクロースにまつわる人種問題への無理解と黒人の子供たちへの思いやりの無さが問題だった。ちなみにケリーは今秋、やはり自身の番組でハロウィンの仮装での黒塗り擁護発言をおこない、番組自体を抹消されている。

 そもそも黒人家庭や黒人地域で地元民がサンタクロースの仮装をする場合、当然だが白塗りなどせず、したがって黒人サンタとなる。子供たちはこれも見慣れている。この点については日本も同じだが、日本人は映像や商品にはアジア人の顔をしたサンタを望まない。白人に抑圧された歴史がなく、かつ第二次世界大戦での敗戦以来の白人文化への強い憧れもあるからだ。したがって真っ白な白人として登場した(ギリシャ/トルコ起源は知られていない)サンタクロースを純正品として、ありのままに受け入れることができる。黒人サンタを見る機会があると強い違和感を持ち、「なぜ?」と疑問に思う。良し悪しではなく、アメリカ黒人と日本人の、対白人の歴史の違いの結果だ。

黒人サンタと黒人少年

 ハーレムに暮らすわが家にも黒人サンタクロースの像がある。プレゼントや景品として白人サンタクロースが描かれたカードや商品が手に入ったとしても拒否はしないし、まして捨てることもしない。けれど息子には自分自身がクリスマスに、ひいてはアメリカの文化に含まれていることを知って欲しい。それが理由で、ハーレムのショッピングセンターでブラック・サンタクロースと黒人少年の小さな像を見つけた時に、迷わずに買ったのだった。

追記:こうした問題に関心のある方には、日本語版も出版されている名作絵本『くまのコールテンくん Corduroy』の一読をお勧めする。出版された1968年当時としては数少ない黒人の子供が登場する絵本だ。デパートで売れ残ったクマのぬいぐるみと、黒人少女リサの物語だが、リサが黒人である必然性は無く、どの人種でも成り立つ物語。だが、黒人の子供たちがこの絵本を読み、自分と同じ肌の色の子供が登場した瞬間にどう感じるかを想像してみてほしい。筆者の息子のPre-K(4歳児幼稚園)に当時のニューヨーク市教育長官で黒人のデニス・ウォルコット氏が訪れ、子供たちにこの絵本を朗読し、絵本とコールテンくんのぬいぐるみをプレゼントしてくれたことは、忘れられない思い出のひとつとなっている。
(堂本かおる)

1 2

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。