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空前の人手不足だという。確かに求人は増えている。これは、労働市場において需要(求人する側)が供給(働く側)を上回っているということであり、それならば需要と供給の関係で価格、つまり賃金は上昇するはずだ。
実際、宅配便業界の社員や飲食業界のアルバイトの時給などは上がっている。しかし、上場企業など一部の大企業を除いた一般的なビジネスパーソンには、賃金が上昇したという実感があまりないようだ。人手不足なのに、なぜ賃金が上昇しないのだろうか。
過去最高の人手不足は事実
帝国データバンクの『人手不足に対する企業の動向調査(2018年10月)』によると、正社員が不足している企業は52.5%で、前年より3.4ポイント増加している。この結果は調査開始以来の最高記録だそうだ。
正社員が不足している業種トップは「放送」の78.6%で、「情報サービス」74.4%、「運輸・倉庫」70.6%と続く。これら3業種はいずれも70%を超えている。
この下には、「建設」、「自動車・同部品小売」、「メンテナンス・警備・検査」、「家電・情報機器小売」、「農・林・水産」と続き、これらの業界はそれぞれ60%台となっている。
また、なにかと話題になる「飲食店」は53.1%が人手不足となっており、前年より9.2ポイント増加している。ただ、「飲食店」業界は正規社員では低いが非正規社員になると、断トツな人手不足業界に躍り出る。
非正規社員の人手不足を、業種別に見ると、「飲食店」がトップでm84.4%の企業が人手不足を感じている。続いて「飲食料品小売」、「メンテナンス・警備・検査」、「娯楽サービス」、「人材派遣・紹介」となる。傾向としては、接客業ほど非正規社員に依存しており、その人手が足りていない、ということのようだ。
賃金は本当に上がっていないのか
このように、人手不足は顕著であるにもかかわらず、賃金が上がらないことに対して、ネット上では「強欲な企業経営者や政治家の陰謀である」といった説が流れている。
本当に賃金は上がっていないのだろうか。好景気が盛んに叫ばれているが、政府やマスコミが発表するトリッキーな数字と、世間の肌感覚に乖離があるのも否めない。
そこで、厚生労働省の『毎月勤労統計調査 平成29年分結果確報』の『時系列第6表 実質賃金指数』から、給与の実質賃金の変化を抜きだしてみた(ボーナスなどの臨時収入を除く)。
各年度の右側の数値は、平成27年を100とした場合の変化で、右端の数値は前年比を表す。
平成17年 108.7 0.8
平成18年 108.2 -0.4
平成19年 107.6 -0.6
平成20年 105.6 -1.8
平成21年 104.9 -0.8
平成22年 106.1 1.1
平成23年 105.9 -0.1
平成24年 105.7 -0.2
平成25年 104.2 -1.4
平成26年 100.8 -3.4
平成27年 100.0 -0.7
平成28年 100.3 0.3
平成29年 100.1 -0.2
一目瞭然だ。平成17年から平成29年まで、実質賃金は下がり続けていたのだ。つまり、「人手不足なのに賃金が上がっていない」という多くの人の肌感覚は、正しかったのだ。
そうなると、需要と供給のバランスを保つ“神の見えざる手”(アダム・スミス『国富論』)は作用しないことになる。市場原理は働いていないのか?