
King & Princeメンバーの岩橋玄樹。1996年生まれで、この12月17日に22歳の誕生日を迎えた。
ジャニーズ事務所に所属する6人組アイドルグループ「King & Prince」メンバーの岩橋玄樹が10月26日、パニック障害の治療に専念するため、休養に入ることを発表した。同グループは2018年5月にデビュー、大先輩である国民的グループ嵐の“後継者”といった呼び声も高かったゆえ、ショックを受けるファンも多かったことがメディアによって大きく報じられていた。
さらにその1カ月後の11月28日、今度は、同じくジャニーズ事務所所属の5人組グループ「Sexy Zone」メンバーである松島聡も、同じパニック障害で一定期間療養に入ることを発表。SNSなどでは、「ジャニーズ事務所は若いタレントを酷使し過ぎなのではないか?」などといった意見も見られた。
しかし、芸能界の歴史をひもとけば、女優の大場久美子、歌手の円広志、美容家のIKKO、元プロ野球選手でタレントの長嶋一茂、お笑いコンビ・中川家の剛、そして岩橋玄樹、松島聡と同じジャニーズ事務所ではKinKi Kids・堂本剛など、実は、この病を抱えていたことを告白した者は多い。
いったい、「パニック障害」とはなんなのか? 精神科専門病院である昭和大学附属烏山病院の院長で、精神科医の岩波明氏に話を聞いた。

Sexy Zoneの松島聡が2018年11月27日に発表した直筆メッセージ(ジャニーズ事務所公式サイトより)
――そもそも精神医学上、「パニック障害」とはどのようなものだとされているのでしょうか?
岩波明 基本的には、「パニック発作」あるいは「不安発作」と呼ばれるものを伴う、「不安障害」という精神障害の一種です。ここでいうパニック発作というのは、突然予期せぬ強い不安感や恐怖感が襲ってきて、死んでしまいそうなほど苦しい状態になることをいいます。あるいはそれに伴って、胸が痛いとか動悸がするとか体がしびれるなどといった身体的な症状が出ることもあります。診断の条件としては、この不安感、恐怖感を伴うことが必要となりますね。
それから、そうしたパニック発作が起こるきっかけとしては、状況に規定されている場合も多いです。典型的なのは、閉所だとか閉塞された状況下――満員電車だとかエレベーターだとか――要は場所と関係している場合が多く、これを「広場恐怖」と呼びます。よく満員電車で突然倒れてしまう人がいますが、それが実はパニック発作だった、というケースは多いですね。
しかし、きっかけがなく突然に起こる、というケースも珍しくはなくて、しかも一度パニック発作を経験すると、体が覚えてしまうためか、何度も起こってしまうことも多い。そういう意味では厄介で治りにくく、患者本人にとっては非常に苦しい病気だといえるでしょうね。
――パニック発作、不安発作といわれると、どうしても気の弱い方、繊細な方がかかりやすい病気なのかな……というイメージを持ってしまいますが、実際のところはどうなのでしょうか?
岩波明 そういうケースもなくはないのですが、メンタル的に非常に強い方、精神的に頑強な方でも出現することのある病気です。しかも、実は発症頻度は高くて、一度でもパニック発作になった経験がある人ということでいうと、人口の5~10%以上はいるともいわれています。もちろん、パニック障害という「病気」として診断を下すとなると、もう少し何度も持続的にパニック発作を経験することが必要となりますが、要は、誰でもかかり得る病気だ、という理解が正確だと思います。
――そのようなパニック発作は、ずっと長時間続くのでしょうか?
岩波明 いえ、数分から数十分たつと、治まってしまうことがほとんどです。なので、病院まで救急車で運ばれてくる方も多いのですが、病院に着く頃にはもう発作が収まっていた、そして体を診察してみてもなんの異常もない……といったケースもよくありますね。
――原因としては、やはりストレスが多いのでしょうか?
岩波明 心理的なストレスがきっかけとなることが多いですが、睡眠不足、それからアルコールで誘発されるケースもあります。飲酒で体調が悪いと発作が起きやすい、などとはよくいわれますね。
――人前に立つ芸能人だからストレスを受けやすく、だからこそかかりやすい、ということはないのでしょうか?
岩波明 そういうケースもありますが、どんな職業の方もかかり得る病気ですし、特定の職業に関して起こりやすい、ということはないと思います。もともとのその人の持っている素質、気質のようなものも関わってきますし。要は、心理的な要因というよりも、あくまでも脳機能的なところでの障害であり、だからこそ誰でもかかり得る病気だ、というふうな理解のほうが正確だと思いますよ。もちろん発症にはさまざまな要素が複雑に絡み合っていますから、どれかひとつ特定の要因がある、ということではありません。
「精神疾患と監禁事件」統合失調症の娘を、父はなぜ“座敷牢”に閉じ込め死に至らしめたのか?
いま、精神疾患や知的障害を抱えた人々を社会としてどのように受け入れていくのかという問題と、そういった人が被害者となった、あるいは加害者となって…
投薬治療でパニック発作を抑える
――では、治療法としてはどのようなものがあるのでしょうか?
岩波明 まず第1には、投薬ですね。主に不安障害に用いられる抗不安薬、いわゆる精神安定剤は効果があります。ただし、うつ病などの気分障害に用いられる抗うつ薬のほうが効く、という場合もあります。
それから、いわゆる認知行動療法を行う場合もあります。どういう状況でパニック発作が起こりやすいかを把握して、それに対する“練習”をするわけです。電車内でよく発作が起こるのであれば、短い区間にだけ乗ってみる、などといった形です。ただ、このやり方はどうしても時間がかかります。
――投薬治療というのは、発作そのものを抑えるのに有効なのでしょうか?
岩波明 そうですね。投薬によって不安が起こりにくいようにするわけです。だから、例えば朝の電車がだめな方は朝必ず飲むとか、あるいは新幹線だとだめだという方は新幹線に乗る前に飲むとか、そういう対応をしますね。
――投薬を続ければ完治する病気なのでしょうか?
岩波明 パニック発作の発生はかなり抑えられます。そして、ある程度の期間投薬を続けて、一度投薬をやめてみる、などといった形で経過を見ます。先ほど申し上げた通り、一度パニック発作を起こすと、以後も発作を起こしやすくなってしまうのですが、きちんと治療を続けて様子を見ながら、徐々に投薬をやめていくことが可能なケースも多いです。
――発症年齢や男女比などに偏りはあるのでしょうか。報道されているジャニーズ事務所の岩橋玄樹さんや松島聡さんは、10代から20代前半の“繊細な年齢”だからこそ発症してしまった、という見方は可能なのでしょうか?
岩波明 いえ、年齢や男女比は本当にバラバラですし、どの年代でも、そして性別を問わず起こり得る病気です。
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