中野区の大富豪“クロー”がつくった新宿の総鎮守
そもそも、十二社熊野神社がどうして新宿の地にやってきたのか。そこには、室町時代に「中野長者」と呼ばれたある男の姿があった。
その名も鈴木九郎。奇跡は起きるものだ。なんと「くろう」だなんて! crowっていったらそりゃあなた、カラス以外の何物でもないでしょう。当時の九郎さんが英語をご存じだったとは思えないが、カラス愛好家的にはストレートフラッシュ炸裂なのである。

社務所の脇の案内板では、十二社熊野神社のいろいろな情報が入手できる
社務所でもらえるパンフレットなどによると、もともと九郎さんの鈴木家は、紀州で「熊野三山」の祭礼などに関わる家柄だったとか。熊野三山とは、先ほどお話しした熊野本宮大社や、熊野速玉大社(和歌山県新宮市)、熊野那智大社(同・那智勝浦町)の総称である。
そんな鈴木家だったが、仕える主人の勢力争いなどいろいろな事情から、現在の東京都の中野坂上から西新宿の一帯に逃れ住むことになったそう。しかし故郷のことは忘れられず、熊野の神さまの分身をここに移してきたというわけ。「十二社」というのは、熊野三山の十二所権現すべてを祀っているというのが由来だとか。
この信心深さのおかげか、その後、鈴木家の家運は上がりに上がり、九郎さんは「中野長者」と呼ばれるほどの資産家になったそうだ。

中野区のホームページでもフィーチャーされているほどの有名人だった
今やこの十二社熊野神社は、西新宿や新宿駅界隈、歌舞伎町などを氏子に抱えた「新宿の総鎮守」となっているとのこと。新宿はカラスに守られているといっても過言ではありません。人生に迷ったときはぜひこちらに訪れて、八咫烏さまに導いてもらいましょう。
おみくじや絵馬もあります。
おみくじは、スタンダードなタイプ。っていうか、和歌に出てくるのはウグイスかーい。
願い事を書く絵馬に、八咫烏というのも心強い。受験も婚活も仕事のコンペも、きっと成就までしっかり導いてくれるはずだ。
拝殿の脇には、奈良県から清酒「ヤタガラス」の奉納が。地域を越えて、八咫烏ファミリーはつながっているんですね!
樽の絵は、カラスというより……ゴイサギというサギの仲間に似ている気もするが、心の眼で見ればきっとカラスなのだ。いたずらっぽい目つきや笑っているようなクチバシなど、強引に似ていると思うことにする。
まぁ実物の八咫烏なんて誰も見たことないんだし。何が「本物」かは、わたしたち一人ひとりの心の中にあるのかもしれませんね。なんのこっちゃ。
先ほどの絵馬やお守り、御朱印も拝受できます。
雨が本降りになってきたので、八咫烏との楽しいひとときもそろそろお開きの時間。
30分ぐらいの滞在だったが、「カラス成分」を補給できる素晴らしい場所だった。ありがとうございます、新宿十二社熊野神社。
最後は、八咫烏さまのキュッと上がったお尻でお別れです。
カラスってマリリン・モンローのようにお尻をふりふりしながら歩くのだけど、それがまたあどけなくって愛らしいのだ。八咫烏は足が1本多いので、また違った味わいになるのかもしれない。
リアルなカラスのモンローウォークは、横にある新宿中央公園で、ぜひ見つけてみてください。
こちらの新宿中央公園は、西新宿の高層ビル群にぽっかり開けた、まさに都会のオアシス。新宿御苑や代々木公園に比べたら規模は小さいけど、大きな樹々あり芝生あり小さな滝やビオトープまであり、昆虫や野鳥たちの社交場でもある。もちろんカラスたちも、カーカー言いながら思い思いの時間を過ごしている。
その中にひょっとして、三本足のカラスがいたりして、ね。