そもそもペット不可の物件だった
〈アパートは部屋中に段ボールが並び、引っ越し作業の真っ最中だった。猫3匹は、見知らぬ我々が部屋に入って来たことで押入れや物陰に隠れている〉
Aさん(妻56歳。以下A)「最初ここでは1匹はオッケーということで入ったんです。でも3匹いることがバレちゃって。車の上なんかに乗っちゃって」
——そもそも今住まれているこのアパートもペット不可なんですか?
A「1匹だけ大丈夫。でも他の猫が外の車の上に乗っちゃったんです、それを上の階に住んでる人に見つかっちゃって、1匹以上飼ってるのがバレちゃって、大家から電話かかってきて、出てってくれないかなということを夫が聞いたんですよ。
うちは生活保護だから一般のところだと入れないんで、市営に申し込んだんですよ。それでたまたま当たって出て行くことになっちゃった。2匹は保健所から引き取って、1匹は知人からもらいました」
——Aさんはお仕事はしていないんですか?
A「私は3年前に脳出血で倒れて半身不随になっちゃって、歩くのもやっとで。ここは坂が多いからね。引っ越してきてから5年半。私が元気だったら何を言われてもここにいるつもりだったんですよ。でも体がこんなことになっちゃったからね」
——Bさんは?
Bさん(夫53歳。以下B)「自分は心不全で倒れてから仕事していません」
——退去理由は猫が車の上に乗って1匹以上飼っていることがバレてしまったからで、自由飼いが原因ですよね。
A「だから外に出しちゃったウチが悪いんですよ。たまに脱走してたけど家の中で飼ってたんですよ」
——猫は今回、ねこけんが引き取れば、本来『猫禁止』だったこの物件に住むための問題がなくなります。ここから引っ越さないっていう選択肢もありますが?
A「猫がいなくなったら、もう私ここにいたくない」
B「悲しくなっちゃうじゃん」
——ここには5年半住んでいて、猫ちゃんたちはいつから飼い始めたんですか?
A「保健所から7~8年前に1匹引き取って、前に住んでいたアパートで飼ってました。でもすごく鳴くので、もう1匹保健所から引き取りました。その後友達からもう1匹引き取って、ここに引っ越しました」
——ペットOKの別の物件を探す選択肢は、今回はなかったんですか?
A「元々私も働いてたんですけど、倒れて生活保護になっちゃったんで。うちにお金があれば。でもお金がないからそういうところしか選択肢がなかったんですよ。こんなことになるとは思わなかったです」
——もしねこけんが引き取らなかったらどうするつもりだったんですか?
B「保健所に連れて行くかね。お金もないし。もうどうしようもないからね、保健所しかないね、あと置いてっちゃうか」
A「ほんとは連れて行こうかと思ったんですよ。でもなんか引っ越し先もうるさそうな感じだから。3匹も飼ってるし。それでまた向こうでバレて保健所に連れてかれたら殺されちゃうでしょ?」
——でも保健所に戻すのも、この家に置いて行くのも結果はおそらく同じですよね。
A「うんそう。だったら向こうに連れてくより、ここに置いて行くしかないかなと思ったんですよね」
——お二人とも病気に倒れられたなか、猫は1匹から3匹に増えたんですね。そもそもその時点で生活が大変なのになぜ3匹も飼ってしまったんですか? 保健所から2匹も引き取って……。
A「最初一匹飼ってたら、鳴いて可哀想だなと思って。それでもう1匹増やした後、友達が猫飼ってて、可愛い可愛いなんて言うからまた飼っちゃった(笑)」
——可愛いから増やしちゃった?
A「そう」
——ワクチン接種は?
A「子猫の時一回やったっきりなんです。それ以降は打ってないです。去勢は皆済んでる」
〈Aさんはバツ2で、以前の夫たちとの間に4人の成人した子供がいる。その家族に引き取ってもらう選択肢はなかったのかと尋ねるも、疎遠であることや、ペットを飼えない環境であることなどを理由に断られたと話す〉