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星野源の最新アルバム『POP VIRUS』に込められた「うんざり」な怒りと、どうしようもない世の中への愛

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 この悩みは「アイデア」という楽曲に昇華されたわけだが、「TV Bros.」(東京ニュース通信社)2019年2月号では、そういった「負の感情」を音と詞に変えた「アイデア」の試みが多くの人から支持を受けた達成感をこのように語っている。

<「アイデア」という曲を受け入れてもらえるかどうか、すごく怖かったんです、僕的には普通だけど、世間的には奇抜なことをしたので大丈夫かなと思っていたらみんなすごく喜んでくれた感触があったので、じゃあここから先は自信を持って好きにやろうという感じでした>

『POP VIRUS』をポップアルバムにした星野源のバランス感覚

 こうして定まっていった『POP VIRUS』の方向性は、この作品の印象的なアートワークにも反映されている。

 『POP VIRUS』のアルバムジャケットは「人間の心臓を模した土塊から赤と青の花がそれぞれ二つずつ咲いている」というもの。花の根が血管のように見える生々しいアートワークだが、こういったジャケットが生まれるにあたり星野は「グロテスク」という言葉を用いながら、グラフィックデザイナー・アートデザイナーの吉田ユニに対してこのようなオーダーを出したという。

<今回は『POP VIRUS』というタイトルでポップな曲も入るんだけど、人間のグロテスクな部分ってものを出したい。心臓じゃないけど、人間の心がそのまま出てるようなアルバムにしたいんだという話をしました>(前掲「TV Bros.」より)

 ただ、『POP VIRUS』はあくまで星野源らしいポップなアルバムで、「シンガーソングライターが自らの怒りを直接的に吐露する」といった作品にはなっていない。

 これまで述べてきたような「負の感情」は、あくまで作品のスパイスとなるぐらいの案配にとどめている。

 実際、制作当初は攻撃的な内容で歌詞を書いていたが、途中で思いとどまって書き直したという。それは星野が本当に歌いたいものではなかったからだ。前掲「MUSICA」で彼は制作途中で行われた軌道修正についてこのように語っている。

<やっぱり僕はみんな死ねよってことが伝えたいんじゃなくて、まぁそういうことを思うことはあるけど(笑)、僕が星野源として世の中に残していきたいのはクソではなく、クソみたいな世の中にある愛なんだなっていうのは今回凄く思いました>

 このバランス感覚を崩すことはなかったから『POP VIRUS』は万人に愛されるポップアルバムになったし、また、自らが抱えた「負の感情」を隠すことなく真摯に作品のなかに混ぜ込んでいったからこそ、『POP VIRUS』は味わい深く革新的なポップアルバムにもなったのだろう。

(倉野尾 実)

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