堤真一と谷原章介がそれぞれの持ち味を活かして表現しきった「民衆の敵」とは?

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 「民衆の敵」が発表されたのは1882年。イプセンは、世界でシェイクスピアの次に上演回数の多い劇作家ですが、すでに高い評価を得ていた1881年に出版した戯曲「幽霊」が、内容がスキャンダラスすぎるとしてマスコミや読者に拒絶され、ヨーロッパの劇場すべてで上演拒否に遭います。「民衆の敵」は、そのことに怒って書かれた作品で「多数派こそが間違っている」というメッセージが強く盛り込まれています。1976年には、アーサー・ミラーの翻訳をもとにした映画版も、スティーブ・マクイーンの総指揮・主演で公開されています。

 このモチーフは、イプセンの友人の父親で、温泉地でのコレラの発生を指摘したために町を追われた医師をもとにしたといわれています。題材はシリアスですが、イプセン本人は悲劇ではなく、ある種の喜劇としてとらえていたそうです。

正義と現実

 トマスは、自身が信じる正義と真実を貫くためひとり立ち上がる強い人間ですが、決して完璧な正義の味方ではありません。ただ正しいだけでは社会に通用しないという現実がみえておらず、偏屈で、成人している娘や育ち盛りの小さな息子もいるイイ年齢をしているのに、青年のように青い。そんな純粋さからくる能天気な正義感を、堤がよく表現していたのは、新聞社でホヴスタらと騒いでいる場面でした。

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堤真一と谷原章介がそれぞれの持ち味を活かして表現しきった「民衆の敵」とは?の画像2 ウェジー 2018.12.27

 体制に打撃を加えるため、ホヴスタはトマスの汚染調査結果を大々的に載せようとしますが、紙面を組んでいるところに登場したのが市長。原稿を隠そうと慌てているところにトマスまで現れそうになり、兄弟を鉢合わせさせまいとホヴスタが四苦八苦しているのに、原稿の校正を催促する無邪気な堤の様子は、思わず苦笑がもれそうに。

 トマスを裏切るホヴスタも、単なる日和見主義の悪人ではありません。貧しい階級の出身であるという劣等感と、既得権益をむさぼる富裕層や権力者を糾弾したいという気持ちを抱え、トマスの調査結果をそのとっかかりにしようとしますが、トマスからは見えていない費用やその出どころを聞けば、現実を見据えられるリアリスト。トマスとは家族ぐるみで親しくしていましたが、調査結果を掲載すれば、運営資金に乏しい新聞社は存続の危機に陥ります。チャーミングな笑顔で好青年に見えていたホヴスタの、あっさり掌を返してしまえる腹黒さを、谷原が笑顔の陰ににじませるうさんくささで両立させていました。

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