
出典:PayPay株式会社HP
スマホ決済サービス「PayPay」を使って加盟店で買い物すれば、代金の20%をキャッシュバックするという太っ腹すぎる企画内容で話題になるも、「100億円の原資が尽きたから」と、開始からわずか10日で幕引きとなったPayPayの「100億円あげちゃうキャンペーン」。
サーバーダウンによる混乱や、クレジットカードの不正利用が簡単にできてしまうシステムの脆弱性などさまざまな問題が浮かび上がったが、このキャンペーンによってPayPayの名前が一気に広まったことには間違いない。
実際に、PayPay株式会社の親会社にあたるソフトバンクの宮内CEOは、12月19日の上場会見で、名称認知度・サービス理解度・利用意向の3点において、PayPayがQRコード決済サービスNo.1となったことを発表している。
最初、総額100億円をキャッシュバックするキャンペーンを行うと聞いたときは、誰もが驚いたことだろう。しかし、プロモーションとして大成功した現状を鑑みれば、むしろ100億円でさえ安い宣伝費だったのかもしれない。
今回の「100億円あげちゃうキャンペーン」のコマーシャルとしての価値について、テレビCMのマーケティング戦略立案・調査分析・コンサルティングに30年以上携わり、『モノ売る地方CM コト得るPR動画』(幻冬舎刊)の著者でもある鷹野義昭氏に話を伺った。
店側に「PayPayを導入させてください」と言わしめる構図を作った
率直に問おう。今回の「100億円あげちゃうキャンペーン」には、100億円の価値があったのだろうか。
「最初に広告費の相場についてお話しますと、全国放送のテレビCMなど、多くの人が見聞きするような大々的な広告キャンペーンを行うのにかかる金額は、一度でおよそ10億円といったところです。また、新製品やサービスの認知度を0%からいっきに80、90%くらい、つまり誰でも知っているレベルまで上げるとなると、総合的には20億~25億円くらいの広告費がかかります。それらと比べても、100億円というのがどれほどの大金かは想像できるかと思います。
もっと言えば、100億円というのは一般的な大企業が1年間で使う広告費と同じくらいの金額でもあります。いくら知名度を急上昇させたとはいえ、それだけの金額を10日間で使い切ったというのは、広告という観点ではやりすぎと言わざるを得ません。
また、今回のキャンペーンには、認知度の向上とともにPayPayユーザーの獲得も狙いとしてあったわけですが、見る限り、現在利用しているのは一部のコアな層のみで、やはり広く一般に普及したとは言い難いかと思われます」(鷹野氏)

鷹野義昭 株式会社テムズ代表取締役
電気通信大学 経営工学科卒業後、大手広告代理店のマーケティングプランナーを経て起業。これまでに1000素材を超えるテレビCMのマーケティング戦略立案・調査分析・コンサルティングを行うなど、30年以上広告業界に携わる。
HP http://www.tems.ne.jp/
PayPayの認知度はたしかに向上したものの、コストパフォーマンスとしては悪すぎるようだ。しかし鷹野氏は、“消費者”以上に“営業先”へのアピールになっている点が重要であると指摘する。
「今回のキャンペーンは原資となる100億円が底をついたため、わずか10日で終了となったわけですが、それはつまり、PayPay導入店でそれだけの買い物が行われたということでもあります。この機会にPayPay導入を検討したお店も多いことでしょう。なかには、お客様から『ここPayPay使えないの?』と聞かれて、焦りを覚えたお店もあるかもしれません。
製品などをお店で取り扱ってもらったり、導入してもらうために働き掛けることを『流通対策』といいます。従来の流通対策であれば、営業社員が『導入していただけませんか?』と店側に売り込むわけですが、PayPayは今回、店側から『導入させてください』と言われるような構図を作り上げた。その点に関しては見事だと思います。
つまり、認知度の向上とユーザー獲得だけでなく、営業人件費に大金を使わずに流通対策までも実現したことを考えれば、『100億円あげちゃうキャンペーン』は成功だったといえるでしょう。また、PayPayは電子決済サービスとしては後発の部類ですが、今回のキャンペーンで既存の競合サービスと肩を並べるところまで到達しました。その分の“特急料金”も含まれていると考えると、100億円は安いくらいかもしれませんね」(同)
やはり、100億円あげちゃうキャンペーンはユーザーのみならず、PayPay側にこそ大きな利益をもたらしたようだ。
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