物語という資産は模倣されない
一見「ないない尽くし」「すべて公開」という非常識なビジネスモデルの中には、実は他社が模倣しにくいファクトリエならではの資源が蓄積されている。36歳の山田さんは、29歳のときから全国の工場を600カ所以上もめぐるという地道な行動で信用を着実に築き上げてきている。ほとんど認知度のないファクトリエというブランドを知ってもらうため、したためた手紙は1000通を超えるという。
こうして、山田さんの思いである「日本のものづくりの物語」を紡いでいると、それに共感する工場が現れ、信頼関係が少しずつ構築され、それが「見えざる資産」として蓄積されるという循環が生まれてきている。
その結果、ファクトリエらしいビジネスモデルができてきたのだ。こうしてファクトリエが紡いできた物語こそ、他社に模倣されないビジネスモデルの重要な資産になっていくのかもしれない。
ファクトリエが販売しているものは、アパレルという有形の製品だ。しかし、そこには「ものづくりの物語」という無形の資産がついている。生産工場の人たちも自分たちの物語を作らんとアパレルの開発と生産に励む。そこに横から割り込む人がいたとしても、すでにファクトリエが築き上げた物語に勝つのは容易ではない。
簡単に模倣されそうで模倣されないビジネスモデルとは、いかに質のよい物語を紡いでいくかであり、それはとりもなおさず、老舗企業となるための肝でもある。模倣耐性に優れ、持続的なビジネスモデルをデザインするには、幅広い知識、過剰な情報に踊らされない見識、不確定な環境で意思決定する胆識が必要とされるゆえんである。