PayPayで100億円を使ったソフトバンク孫正義氏の勝負勘

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 この理論にはもう1つ続きがある。上図の左から2番目の「アーリーアダプター(初期購入者)」と3番目「アーリーマジョリティ(初期主要購入者)」の間が離れている。この間に発生する空白は、「キャズム(深い溝)」と呼ばれている。つまり、左から1番目と2番目を足した「イノベーター(革新的購入者)」と「アーリーアダプター(初期購入者)」の合計16%普及率を超えれば、一気に普及するが、たいていの革新的製品はこのキャズム(深い溝)」を飛び越えられず、普及しないことを意味している。

 この溝を飛び越えるには、助走をつけたジャンプ力が必要だ。さもなければ、溝にはまって、「アーリーマジョリティ(初期主要購入者)」にたどり着かない。

 今回、PayPayが行った「100億円あげちゃうキャンペーン」は、アプリのダウンロードと決済を一気に促進させることが目的だ。イノベーションのベルカーブでいうと、左手から思いっきり助走をつけて、キャズムを飛び越えるというものである。

 スマホの高い普及率、政府のキャッシュレス促進などの追い風があるものの、PayPay自体は、先行するLINE Payなどに比べると後発だ。だからこそ、中途半端なキャンペーンではなく、誰もが驚く巨額資金を費やして、キャンペーンを打ったといえる。

 これほどの巨額キャンペーンができたのはソフトバンクグループの豊富な資金力があってのことだが、グループを率いる孫正義氏の勝負勘が働いての判断があったのではないか。

 2001年、孫正義氏は当時有料だったモデムを街頭で無料配布して、ADSL旋風を巻き起こし、一気にインターネットを浸透させた。世間があっと驚くくらいのことをやらないと、キャズムを飛び越えられないことを知っている数少ない経営者。それが孫正義氏なのだ。

ガマン比べで、勝つ者、負ける者

 キャズムを超えて一気に普及していくことのメリットは、その製品が広く使われ、売上が上がることを意味する。かつてADSLモデムを無料配布した理由は、その後、毎月インターネット利用料が安定して入ってくるからだ。末永く安定発生する「定期購入売上」を考えれば、モデムを無料化しても元が取れる算段があったのである。

 ところが、PayPayなどのQR決済の場合は、少々事情が異なる。

 今のところ、売上発生が見込まれない。

 たとえば、クレジットカードで決済すると加盟店(買い物した先)が数パーセントの手数料をカード会社に支払うことになる。これがカード会社の主たる収入源だ。

 だが、PayPayでは今のところ、加盟店からの手数料は発生しない「売上ゼロ」の状態だ。そうすると、100億円キャンペーンは何のためなのか?

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