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政府による“働き方改革”が進む日本だが、とりわけ2018年は “副業元年”と呼ばれる。
世間の大半の企業は、厚生労働省が発表している「モデル就業規則」を参考に自社の就業規則を定めているが、かつては「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」との記述があり、副業は認められていなかった。
しかし2018年1月31日の改定によって、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」との記述に変更。今までも副業は法的に禁止されていたわけではないにせよ、「モデル就業規則」の改定は、お上の旗振りによる実質的な“副業解禁”といえる。
しかし……独立行政法人労働政策研究・研修機構が2018年2~3月にかけて実施した「多様な働き方の進展と人材マネジメントの在り方に関する調査」では、従業員100人以上の企業2260社のうち、実に75.8%が「副業・兼業の許可する予定はない」と回答している。いまだに従業員の副業に否定的な企業が目立ち、その理由は「過重労働となり、本業に支障をきたすため」「労働時間の管理・把握が困難になる」「職場の他の従業員の業務負担が増大する懸念があるため」の順に多かった。
では、従業員側の副業に対するスタンスはどうなのかというと、同調査では1万2355人のうち、37.0%が「新しくはじめたい」「機会・時間を増やしたい」と回答している。企業側の心配とは裏腹に、副業に意欲的な人々は決して少なくない。
副業をスタートさせるきっかけには、本業の収入だけでは物足りないという理由もあるだろう。しかし、せっかく副業に取り組むのならお金以外にも得るものがあり、自分の将来につながるような仕事が望ましいではないか。
副業選びは定年後を視野に入れよ! 会社外の人間関係を構築するのがベター
そこで今回は、副業事情に詳しい公認会計士の田中靖浩氏に、効率的な副業探しのポイントを伺った。
「副業への関心はここから10年、20年とますます高まっていくでしょう。組織論の権威であるリンダ・グラットン教授が掲げた“人生100年時代”というキーワードが大きかったと思うのですが、会社員たちは今、『定年を迎えたあとも人生はまだまだ長い』という当たり前の事実に気づき始めています。医療の発達に伴って人間の寿命は延びていますし、60歳や65歳が定年だとしても、会社員でいられる期間は人生の2/3に過ぎないということですね。
とはいえ、世の会社員たちは、会社に勤める以外のお金の稼ぎ方をほとんど知りません。また、定年後には人間関係が一気に希薄になってしまう恐れもあり、特にエリートの人ほど危ないといえます。出世すればまわりの人のほうから自然と寄ってくるようになるでしょうが、それは会社の中の人間関係でしかなく、“元○○”のような肩書きは、老人になったら何の意味もないのです。
老後も時間を持て余さず、イキイキと暮らしたいのなら、お金を稼げる仕事を確保しつつ、友人のネットワークも維持することが望ましい。それを念頭に置くと、若いうちから副業によって、会社員を辞めたあとのキャリアを考え、さらには人間関係を広げることが理想的。フリーランスでユニークな仕事をしているような人と出会い、『こんなお金の稼ぎ方もあるのか』ということをたくさん勉強するのが一番です」(田中氏)
今の職業や役職を副業で活かすという発想は逆効果?
続いて、副業において大切という“場づくり”の意義について聞いた。
「たとえば、ネットショップを運営している人にはよくある話なのですが、仲間たちがお互いの店で買い物をしています。相手がいい商品を売っていることが前提にはなりますが、『おたくのパンはおいしいですよね』と買ってあげたら、相手だって『あなたのところの器もいいですよね』と、自分の商品を購入してくれるかもしれません。
つまり、誰かがお金を稼ごうとしているときに手を貸してあげれば、“お互い様”や“ギブ&テイク”の関係を築きやすくなるということです。自分の売り物がなければその輪の中にすら入れませんが、自分で仕事を立ち上げた人同士が協力し合うことは、副業をするにあたって強いネットワークになるでしょう」(田中氏)
その一方で、田中氏は「副業を始めるなら、本業とは全く違う環境に行ったほうがいい」と強調する。
「会社員は、自分の長所が役に立つような副業をしようと考えるかもしれませんが、それだと会社員の延長で終わってしまいがち。たとえば私の場合なら、もしも複数人でビジネスを立ち上げようとなったときに自分が会計士だと明かせば、経理を任せられるに決まっているでしょう。しかし、それでは営業担当などの他の役割が、私には回ってこなくなってしまうのです。
もし20~30代のうちから副業を検討するのなら、自分は何が得意で何が不得意なのか、決めつけるべきではありません。別の分野には、また違う自分の才能が眠っているかもしれません。副業においては、自分の職業や役職を隠したまま何らかのコミュニティに入っていくという姿勢が非常に重要です。自分の可能性を高めるためには、もともとの強みにこだわらず、いろいろな経験を積むことをオススメします。
もっとも、会社に勤めながら株や仮想通貨の勉強をするという副業の選択肢もあるとは思うのですが、それで大金を稼ぐのは大変なことです。もちろん失うリスクだってあります。やはり自分の身体と時間を使ってお金を稼いだほうが、割がいいのではないでしょうか」(田中氏)
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