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毎冬、重い全身症状から始まり、強い感染力で息つく間もなく飛び火するインフルエンザ。インフルエンザウイルスがもたらす急性の伝染性感染症は、世界中の人びとを咳と高熱で悩ませ、多くの高齢者の生命を脅かし、乳幼児の脳症を重症化させている。
そもそも、インフルエンザウイルスの正体は何だろうか? インフルエンザウイルスとは、ヒトに感染し、感染症であるインフルエンザ症を引き起こすウイルスだ。生物学の分類では<「エンベロープを持つマイナス鎖の一本鎖RNAウイルス」と定義される「オルトミクソウイルス科」に属する>と、ややこしい。
本来はカモなどの水鳥を自然宿主に生息し、その腸内に感染する弱毒性のウイルスだったが、突然変異によってヒトの呼吸器への感染性を獲得したとされている。
インフルエンザウイルス は、ウイルスの核タンパク質複合体の抗原性の違いから、A型インフルエンザウイルス 、B型インフルエンザウイルス 、C型インフルエンザウイルスの3タイプに分類される。一般にインフルエンザウイルスと呼ぶ時はA型、B型を指す場合が多い。
インフルエンザA型、B型、C型の違いは何か?
3つの型の違いはウイルス粒子を構成するタンパク質のうち、M1蛋白(構造タンパク質)とNP蛋白(核タンパク質)の抗原の性質の違いに基づいている。抗原性以外にも病態的、形態的、遺伝子的に明確な差異があり、特にC型はA型、B型との違いが大きい。
病原的な違いは、A型、B型は毎年冬期(まれに春期)に流行し、ヒトのインフルエンザの主原因になる。特にA型は変異型が多く、世界的な大流行を起こしやすく、ウイルスに対する免疫の持続が短い。
B型はA型よりも流行の規模は小さいものの、世界的・地域的な流行を毎年繰り返し、ヒトとヒトの間でのみ感染する。遺伝子が安定しているため、ウイルスに対する免疫はA型より長く持続する。
一方、C型は季節に関わらず4歳以下の小児に感染しやすいが、ほとんどの大人が免疫を持っているため感染しにくく、遺伝子もほとんど変化しないため、免疫は生涯持続する場合が多い。このため、通常インフルエンザ・ワクチンはA型とB型が対象であり、C型は対象としていない。
流行を起こすウイルスには地域や年度によって違いがあり、株として分離された場所と年度によって命名・分類される。たとえば、「A/ニワトリ/香港/258/97(H5N1)」「A/ワシントン/1/33(H1N1)」「B/上海/361/2002」のように、「A、B、Cいずれの属か」「分離された生物種」「分離された場所」の順に表記し、A型の場合は、最後に括弧内に抗原型を書く。
インフルエンザは大流行のたびに名前がつけられており、1918年の「スペイン風邪(H1N1)」、1957年の「アジア風邪(H2N2」)、1968年の「香港風邪(H3N2)」、1977年の「ソ連風邪(H1N1)」などだ。
大流行するのはA型とB型だが、年ごとに流行する型が変わる。しかも、同じ型でも微妙に型を変化させるので、以前のインフルエンザで獲得した免疫は役に立たず、毎年かかるリスクがある。
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