カメラマン広河隆一氏のセクハラ加害で見えた、“権力”と“魅力”の履き違え

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立場の弱い人間の“怯え”を“好意”だと都合よく解釈しているのは誰か

 事態が進展せぬままもう1年半も経過してしまったが、2017年5月、ジャーナリストの伊藤詩織氏(当時26歳)が、元TBSワシントン支局長の山口敬之氏(当時49歳)からレイプ被害にあったことを告発する記事が、「週刊新潮」(新潮社)に掲載された。この事件も同様の仕組みが背景にあるといえるのではないか。

 当時ニューヨークでジャーナリズムを専攻していた伊藤氏は帰国後、就職相談のために山口氏と会食する。その夜、山口氏の宿泊先で二人は一夜を過ごしている。しかし伊藤氏は、自分の意に反してホテルに連れ込まれてレイプの被害に遭ったと告発。伊藤氏は実名で顔を出して司法記者クラブにて記者会見を行った。

 山口氏は肉体関係を認めているものの、レイプは否定。山口氏擁護派からは、伊藤氏による“ハニートラップ”の疑いを言い募り、山口氏を誘惑して職を得ようとしたが思うような就職先を紹介してもらえずヒステリックになっている、との見立てまで飛び出した。だが報道関係の就職口を探す伊藤氏と、それを斡旋できる地位にあった山口氏の立場は、“対等な男女の関係”とはいえず、仮に山口氏が「この女性は自分と寝たがっている」などと思い込んだとしたらそれこそ勘違いだろう。

 おりしも2017年10月、米ハリウッドの著名映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏(当時65歳)が、夢を追う女優やモデルたちにセクハラを働いていたことが発覚する。この被害女性たちの告発に鼓舞されるように、世界中の女性(一部には男性も)たちが声を上げ、世界的に「#metoo」運動が広まった。

 これを受け、日本でも著名ブロガーのはあちゅう氏が、電通社員時代に受けたセクハラ、パワハラ被害について相手の実名を出して告発した。先輩男性社員から「俺に気に入られる絶好のチャンスなのに体も使えないわけ?」などと暴言を吐かれた過去があったという。

 “身体”を使って権力者に気に入られることが、女性にとって適切な手段だとみなして憚らない人がおり、そういう業界があることは事実なのだろう。それを利用する女性も存在してきたとして、「女も得したくせに、なぜ訴えるのか」と、告発する女性たちを責める向きもある。だが、権力を利用したのは誰か? 自身の持つ権力を見て見ぬフリをして、立場の弱い人間の“怯え”を“好意”だと都合よく解釈しているのは誰か。

「相手が自分に好意を持っていた」「同意があると思っていた」の誤解

 セクハラが起こる大きな要因に、双方の認識の違い、誤解がある。性暴力事件やセクハラ行為が追求される局面において、男性(もちろん女性の場合もある)は「相手が自分に好意を持っていた」「同意があると思っていた」との弁明をするが、それはほとんどが誤解だ。

 広河氏の例をとってみても分かるとおり、相手が「目上の人だから失礼のないように……」と敬意を表して接していたり、もしくは「逆らえない」という上下関係ありきで従っていたり、というケースが多いのである。無自覚なのか意図的かはわからないが、加害者はそこにつけ込み、自身の権力的な立場を濫用しているに過ぎない。

 ゆえにセクハラは双方のコミュニケーション不足が要因だとは言い切れない。適切なコミュニケーションが難しい上下関係において発生することもあるということだ。

 相手に対して優位に立つ側は、その権力に自覚的でなければいけない。また大の大人が年少者の“おべんちゃら”を真に受けることほど、みっともないこともない。たとえ立場の弱い人間が忖度なく「あなたとセックスなんてしたくない!」と拒絶しても、卑劣な嫌がらせにあうなど損害を被るようなことのない社会を、私たちは目指したい。

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