
2016年度の合同トライアウトの様子(写真/筆者提供)
今年の年の瀬も、再起を目指すプロ野球選手のドキュメンタリー番組がTBS系でオンエアされる。12月30日23時より放送予定の、『プロ野球戦力外通告 クビを宣告された男達』である。プロ野球において「戦力外」を通達された男たちを追うこの番組が定着して久しい。リストラ、左遷、転職……。この番組の人気の理由は、会社で“正当な評価”を受けていないと感じ、悶々としている世のサラリーマンが自らを投影できるからだろう。
この番組において重要な意味を持つのが、「トライアウト」である。正式には、「12球団合同トライアウト」。翌シーズンにおける契約がいずれのチームとも結ばれなかった「戦力外」選手に対し、セ・パ12球団が合同で行う一種の入団テストであり、2001年より開始されたシステムである。
「12球団のスカウト、編成担当者が一堂に会するこのトライアウトで、“再起”を懸けた一発勝負に出る。ヒットを打ったかどうかだけが判断基準ではなく、各球団の担当者が総合的に実力を判断するのですが」(在阪球団スタッフ)
しかし昨今、このトライアウトを受験する元プロ野球選手たちの考え方に“変化”が生じ始めているという。「もう一度プロ野球選手として再起を目指したい。何がなんでも!」という、上記特番でも重要なテーマとなっているような思いを秘めた、現役生活に“執着”する選手が激減しているというのだ。在京球団の職員は、こう首を傾げる。
「ただ“安定志向が高まった”のだと見るべきなのか、あるいは引退後の人生を見据え選手たちの“視野が広がった”と見て喜ぶべきなのか、意見が分かれていますがね」

バックネット裏に陣取るスカウト、球団関係者ら(写真/筆者提供)
「会社員になりたい」と考えるイマドキ“戦力外選手”たち
日本野球機構はこの12月13日、「2018年現役若手プロ野球選手への『セカンドキャリアに関するアンケート』」の結果を発表した。これは10月、若手選手の教育リーグともいえるフェニックス・リーグの開催中に行われたもので、265人の選手に配布されたもの(回収率95.1%)。その中に、「引退後、どのような職業をやってみたいですか」の問いがあり、その回答としてトップになったのは、なんと「一般企業の会社員」(15.1%)だったのだ。このアンケート調査は10年以上にわたって毎年行われてきたが、「サラリーマン」がトップになったのは今回が初めてである。
「プロ野球に籍を置いた選手の中で、その後そのままプロ野球チームの監督やコーチになれるのはごく一部の“成功者”のみ。その他大勢がなんらかの形で球団に残ることのできる可能性はきわめて低く、そのため“次善の策”として検討されるのが、“アマチュア野球”で成功すること。要は、高校野球の監督になりたいと考える選手が以前はたくさんいたのです。その次が、大学、社会人、中学チームなどのコーチでしょうか。要は、引退後もなんらかの形で野球にかかわっていきたいと考えていたわけです」(前出・同)
ところが今年実施された上記アンケートにおいて、「高校野球の監督」は前年トップから4位にランクダウン(11・1%)。一方、前年は7%にも満たなかった「会社員」が急上昇した理由を考えるに、トライアウトを取材してきた者のひとりとして、思い当たる“ある理由”がある。
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自分自身にあえて「現実を突きつける」
そもそも、トライアウトを受験する選手は2通りに分かれる。まずひとつが、「絶対に再起してみせる」と意気込んでいる選手。つまり、冒頭でも触れた年末特番『プロ野球戦力外通告』で主に取り上げられてきたような選手たちである。
しかし、実はテレビカメラに映らないところで、「自分自身を納得させるために受験した」と語る選手もいる。つまり、ある意味現役続行は“端から諦めている”のだ。しかも、実際のところトライアウトにおいては、後者のタイプのほうが多い。この2018年のトライアウトには48人の選手が受験したが、新たな球団との契約が決まったのは、わずか4人(未受験選手を含む/育成再契約は除く)。再起の厳しさは、誰が見ても一目瞭然なのだ。
ある元日本ハム投手は、トライアウト会場でこう語っていた。
「僕は、ダルビッシュや大谷翔平と野球をやってたんですよ。“自分の実力”はわかりましたから」
かつてホークスやヤクルトで活躍した新垣渚投手も、2016年のトライアウト時、家族と記念写真を撮っていた。つまり大半の選手は、「トライアウトを受けはしたが、どこの球団からもお声が掛からなかった」という現実をあえて自分自身に突きつけ、“次の人生”に進もうとしているわけである。
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