「大学進学への保証」を求める高校球児
また彼らは、「もうひとつの現実」をも突きつけられている。
「高校野球の指導者になることが、本当に難しいとわかったようですね」(在阪球団スカウト)
2013年、日本高野連は、元プロ野球選手の「指導者復帰」に関する規制を大幅に変更した。これまでは、「教員免許の取得」と「2年強の教員実績」を必須条件としていたが、これが「2日程度の研修・座学でOK」と、大幅に緩和されたのだ。この措置によって、「引退後は高校野球の指導者になりたい」と考えるプロ野球選手が一時的に急増する。だからこそ、2017年の上記アンケート結果で、「学生・アマチュア指導者になりたい」とする声が32%以上もあったわけである。しかし、彼らの思いが“勘違い”であったことが、徐々に明らかになる。
高野連は確かに、指導者復帰への規制緩和を承諾はした。しかし、実際の就職の斡旋までは約束していないのだ。一部の元選手たちは当然、「定められた研修・座学を受ければ、どこかの学校からお声が掛かる」と思い込んでいた。中には、自身の卒業校や知人に売り込むなどしていた者もいたという。しかし少子化の昨今、たとえ名の知れた私立校であっても、部活動のためだけの職員を雇う余裕がないという学校は多い。公立校であれば、なおさらだ。
甲子園出場の経験を持つある私立高校の教諭監督は、現代の高校野球球児の“進路事情”について、こう語る。
「今年の中日のドラフト1位指名を受けた、大阪桐蔭の根尾昂内野手。彼のご両親は3年前の高校進学にあたり、『野球でダメだった場合は、医学部進学が約束された学校でないと……』という条件を提示していたといいます。真偽はともかく、野球強豪校にスカウトされた球児の親は昨今、“野球でダメだった場合”の大学進学までの保証を求めてくることが珍しくなくなっていますね」
学生球児さえ、ここまで進学を気にかける時代。プロ野球選手が、引退後の安定を求めるのも当然なのだろう。「再起を懸けて奮闘する」などというのは、テレビの中だけの“美談”になってしまったのかもしれない。
(文/美山和也)
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