ネット通販市場そのものは拡大を続けており、この先も「もちろん、伸びていくと思います」(理央氏)と、業界の発展は見込まれる。では、大手スーパーやコンビニが、ネットスーパー事業から手を引いているのはなぜなのだろう。
「ポイントは生鮮食品でしょう。小売業にとって生鮮食品は、非常に効率の良いカテゴリーです。なぜなら、生鮮食品は購買頻度が高いので、同じ店に同じ顧客が何度も来店してくれますし、“ついで買い”のように他の商品も売れることになるからです。ちなみに、地域限定ではありますが、Amazonも生鮮食品を取り扱う「Amazon Fresh」(日本では2017年サービス開始)をスタートさせており、これもAmazonのサイトに毎日来てほしいという理由からでしょう。
しかし、鮮度が命となる生鮮食品は、ネットスーパーにとってとくに扱いが難しいジャンルでもあるのです。当然、コンビニやスーパーマーケットは、これまで生鮮食品を扱ってきた経験を活かして、ネットスーパーを始めました。ですが、うまくいかなかったのです。なぜ、これまでのノウハウだけでは失敗してしまうのかと言えば、リアルの流通体系とネット通販の流通体系が全く違うからでしょう。
『ネットで注文を取って、売るだけ』というように簡単に考えられがちですが、eコマースで鮮度を保ったまま生鮮食品を取り扱うためには、梱包作業や注文の捌き方、個人情報の取り扱いなどに際して、とても複雑なシステムを必要とします。ですから、ビッグピクチャー(問題の全体像)をしっかりと考えて、売れる仕組みやビジネスモデルを検討したうえで、ネットスーパーを始めないと失敗してしまうのです。」(同)
たしかに、同じネット宅配サービスという業態であっても、撤退する企業がある一方で、有機野菜などに特化した食品の宅配サービス『Oisix』は、2018年に発表した決算で売上高137億6904万円と前年比20.0%の増収増益を発表している。
「撤退したネットスーパーのいくつかのサービスは、安易にスタートしてしまったように見えていました。しかし『Oisix』のように、きっちりとビジネスモデルを作っているところは好調です。つまり、ネットスーパー全体が不調というわけではなく、時流に乗ってとりあえず始めてみたという企業と、ビッグピクチャーを把握したうえで戦略的に開始した企業とで、明暗が分かれ始めているという状況だといえるでしょう」(同)