「富山は日本のスウェーデン」ではない。自民党の家族観・女性観と変わらない井手英策氏の「富山モデル」

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安倍政権下で「富山モデル」を称揚するリスク

 井手氏の議論がもてはやされると困る理由は、井手氏の議論が安倍政権の政策と酷似していることにもある。安倍政権の女性・家族政策は、かつての男尊女卑的なスタイルとは異なり、「女性が輝く社会」や「女性活躍」などを打ち出しているため、性差別やジェンダー格差の解消をめざしているかと見まがうような面がある。

 安倍政権の女性・家族政策では、「女性活躍」はあくまで経済の活性化が目的である。「結婚支援」や三世代同居の支援は、少子化対策として子どもを産む世代をターゲットにし、「早く産め・多く産め」ということを目的としている。安倍政権は、少子化を「国難」とみなし、結婚支援により解決させようと企業や団体、小中高、大学まで巻き込みつつ優先的に推進している。これらは個人の自由、女性やLGBTの自由に生きる権利を奪うもので、反動的な要素が大きい。さらに、「親のための学び」や親学などと称して、地方自治体が学校やPTAなどを通じて、「家庭教育」の奨励にも積極的だ。これは、子どもに何か問題があると「保護者の責任」と自助努力を強めることにつながる動きだ。このように政府や自治体が個人の権利を制限し、自助努力を求める方向にある現在、「富山モデル」が奨められると、この方向により拍車が掛かることになり心配だ。

 今の安倍政権下というコンテクストで井手氏が評価する「富山モデル」が全国に奨励されることになれば、家庭教育、三世代同居推進政策など安倍政権の女性・家族政策をより強力に後押しすることになり、その悪影響が懸念される。自民党の改憲草案の一文には「家族は助け合わなければならない」というものがある。現行憲法と比較すると「家族保護条項」として「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される」という表現が加わる。それによって家族は助け合うから社会保障はいらないだろうと言われかねないのだ。

 改憲論議で「富山モデル」やスウェーデンがますます都合良く利用される不安も大きい。ただでさえ貧弱な女性や障がい者、LGBTといったマイノリティの権利がさらに低下してしまい、自助努力がより強制され、社会保障が貧弱になるかもしれない。そうなってからでは遅すぎる。今のうちに井手氏の主張が孕む問題点を広く全国で共有し、議論を喚起しなければならない。

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