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ホリエモン事件と同じ構造!? カルロス・ゴーン事件に見る、独裁者を“利用”し、そしてほうむり去る我がニッポンの“伝統”

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法社会学者・河合幹雄の「法“痴”国家ニッポン」

第7回 2018年12月、再逮捕されたカルロス・ゴーンと、独裁者を利用して捨てる、ニッポンの“構造的伝統”

 本連載ではこれまで2回にわたり、日産自動車のカルロス・ゴーン前会長(64)が2018年11月19日に逮捕された事件を取り上げました。その間にも、12月10日の金融商品取引法違反容疑による再逮捕、12月20日の東京地裁による東京地検特捜部の勾留延長申請の却下、さらには保釈の可能性が高まる中、その翌日に特別背任容疑による再逮捕と、事態は刻々と推移しています。

 そんな中でも、事件発生当初から変わらず、おそらくもっとも多くの人が抱き続けているであろう疑問をひとつ挙げるとすれば――カリスマ経営者と崇められていたゴーン容疑者が、なぜこうもあっさりとその座から引きずり降ろされてしまったのか、ということではないでしょうか。今回はその疑問に対する答えについて、ゴーン容疑者の人物像や時代背景などから考察したいと思います。

 ブラジルに生まれ、祖父の母国レバノンで中等教育を受けたゴーン容疑者は、フランスの工学系エリート校(グランゼコール)を出て同国の大手タイヤメーカーのミシュランに入社し、実に30歳の若さで南米ミシュランの最高執行責任者に就任しています。1996年にフランスの自動車メーカー・ルノーに転職して上席副社長となって以降も、日産の社長兼最高経営責任者、ルノーの取締役会長兼CEO、さらにはルノー・日産アライアンスの会長兼最高経営責任者を歴任するなど、エリート街道をひた走ってきました。大規模な人員削減を断行して「コストカッター」と呼ばれるなど、その経営手法については賛否両論あるものの、基本的に彼が有能な人物であることは疑いようがありません。

 それと同時に、これまでの言動や周囲の証言などからほぼ間違いなくいえるのが、よくも悪くも権力欲の非常に強い、独裁的な人物であるということです。何事も自分の思い通りに進めたがり、イエスマンを重用する。ゴーン容疑者にそうした一面があることは、彼によって日産の社長に引き立てられた恩のある西川廣人(さいかわ・ひろと)氏ですら暗に認めている。ゴーン容疑者逮捕直後の会見で西川氏は、記者からの「ゴーン氏はカリスマ経営者だったのか、それとも暴君だったのか」という問いかけに対し、「やはり功罪両方あるというのが実感」と答えています。

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2018年12月17日、取締役会後に記者会見をする、日産自動車の西川廣人社長(写真:AP/アフロ)

カルロス・ゴーンは本来なら政治家になった人材

 有能で上昇志向が強く独裁的。こういうタイプの人間は、洋の東西を問わず、かつてであれば財界より政界へ進んで成り上がろうとするのが常でした。今でこそ、こういうパーソナリティを持つ企業家は珍しくありませんが、少なくとも1980年代末頃まで、ゴーン容疑者のような能力ある野心家の多くは、政治家や官僚になって立身出世を目指したものです。

 ところが東西冷戦の終結後、グローバル経済が進展していくにつれ、労働者間の収入格差はどんどん拡大し、「競争に勝った者、努力した者は際限なく儲けてもいいのだ」というような価値観が「公正」なものとして世界にまん延していきました。そうなると、優秀な人材の目が政界より財界へ向きやすくなるのは自然な流れです。将来有望な若者がこぞってビジネスの世界に身を投じ、政治家や官僚の人材不足が顕著になる、という現象が世界中で見られるようになりました。

 実際、わが国でも近年、かつてエリートの代名詞であったキャリア官僚は、割に合わない仕事として優秀な学生から敬遠されつつあります。ひとつの目安として挙げると、国家公務員総合職(旧国家公務員I種)試験の合格者に占める東京大学出身者の割合は、2015年度26.6%でしたが、2016年度21.5%、2017年度19.8%、2018年度18.3%と顕著に下落し続けているのです。

 まさにゴーン容疑者は、従来ならば政治家を目指したような人物でありながら、そうした時代の潮流に乗ることを選んだひとりだったといえます。事実、彼が日産でやったことというのは、人員や工場を整理してコストを削減する、系列を解体して競争力を高める、社内に埋もれていた能力の高い人材を取り立てる一方で全体の給料を下げるなど、結局のところ“兵隊をいかに動かすか”という一点に集約される。完全に政治家の領分といえる仕事で名を上げたわけです。

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ウェジー 2018.12.21

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